いつも楽しみに拝読しているyomi.Drの勝俣先生の連載。
私自身もずっと違和感を感じていたことが書かれていた最新号。大きく頷いたところが多かったので、長文だが、以下転載させて頂く。
※ ※ ※(転載開始)
がん診療の誤解を解く 腫瘍内科医Dr.勝俣の視点 (2016年3月7日)
がんサバイバーの時代 ~「がんを克服した」はやめましょう~
「私はこうやってがんを克服した」
「がんはこうやって克服する」
ネットなどを見ていますと、このような情報があふれています。
私は、この「がんを克服する」という言葉に、がんの専門家として、大変、違和感を覚えます。
がんは克服できる病気?
がんは、克服できる病気なのでしょうか?
作家のなかにし礼さんは、2012年に食道がんと診断されました。
先進医療の陽子線治療を受け、がんはいったん消失しました。
その当時、マスコミは、
「陽子線で食道がんを克服した!」
と一斉に騒ぎ立てました。
しかし、なかにしさんのがんは、2年半後に、リンパ節に再発、その後、なかにしさんは、手術や抗がん剤を受けました。
医学的に言うと、なかにしさんの食道がんは、陽子線でいったん消失したかのように見えましたが、実際には、ミクロレベルのがん細胞が残っていて、それが後になって、再発となって現れたということです。
このようにがんという病気は、いったん消えたかのように見えても、再発・転移を繰り返すことが特徴なのです。
手術や放射線治療でがんをいったん消失させることは可能ですが、その時点で、「治った」とは言えません。まだ、ミクロレベルのがんが潜んでいる可能性があるからです。ましてや、「克服した」とも、決して言えないということになります。
「克服」とは、困難に打ち勝つこと、と辞書にはあります。
そもそも、がんに勝ち負けがあるのでしょうか。
病気に勝ち負けがあるのでしょうか。
がんが再発しなかった患者さんが、「勝ち」で、
がんが再発・進行した患者さんは、「負け」なのでしょうか?
がんが再発しても、がんとしっかり向き合って、立派に生活してらっしゃる患者さんがいます。このような患者さんも立派にがんを「克服している」と思います。
がんが再発していないことの意味で、「がんを克服した」と言うこともおかしなことです。
がんは何年経っても再発する
がんの治療成績を、5年生存率の数字でよく表します。
がんは、5年を過ぎると再発率が減るので、がんの生存率は、おおまかな目安として、治癒率の基準として使われることがあります。
しかし、5年を過ぎたからといって、絶対再発しない、というわけではありません。
がんは何年経ってからでも再発します。
乳がんなどは、長い年月を経てから再発をするがんの代表でもあります。
私の経験した患者さんでも、手術後35年してから、乳がんが再発した方がいらっしゃいます。
また、他のがんの例では、早期胃がんで手術後、15年目に骨転移が見つかった患者さんがいました。
最近、国立がん研究センターは、がんの10年生存率を出しました(注1)が、10年生存率というのも、治癒率と全くイコールというわけではなく、あくまでもおおよその目安ということになります。
がんが再発する原因
がんが再発するとは、どういうメカニズムなのでしょうか?
初回の手術や放射線治療で、いったん、画像診断上はがんを消失させることができます。
がん細胞は、血管やリンパ管の中に入り込む性質があり、局所的な治療で、がんが消失できたかのように見えても、ミクロレベルで、がん細胞が潜んでいる可能性があります。血管やリンパ管は全身にはりめぐらされていますので、がん細胞が全身にめぐり、それが長い年月を経てから、他の臓器へ転移となって見つかることがあります。
これを再発と呼びます。
再発はどんながんでも起こることです。
どんながん治療をしても、絶対再発しないということはありません。
また、100パーセント再発を予防できる手段も定まっていないのが現状です。
このように、がんの性質、がん治療の現状からしますと
「がんを完全に治した」
ということは、医学的にもあり得ないこととなります。
もちろん、がんを克服する、がんを制圧するための、あらゆる試みは、現在でも、また、今後も続けられることと思います。
また、患者さんの「がんを克服したい」という願いを否定したいというわけではありません。
がんサバイバーの時代
海外では、がんで治癒した人、再発した人を区別しないで、がんと診断された人すべてを「がんサバイバー」と呼んでいます。
上記で述べたように、「がんの治癒」という言葉は絶対ではありません。また、がんが消失している状態、再発していない状態だからといって、医療上のケアが全く必要なくなるというわけではありません。
がんの初期治療が終了した患者さんは、いつ起こるかわからない再発への不安、手術や抗がん剤などの初期治療の後遺症、社会復帰に向けた就労の問題など、精神的問題、身体的問題、社会的問題など、取り組むべき様々な問題があります。
また、このような問題に対するケアは、再発していない患者さん、がんに現在かかっている患者さんと区別するものではありません。
がんと診断された患者さんは、がんが消えていようが、消えていまいが、同じように、精神的苦痛を抱え、身体的・社会的問題をもつため、区別することなく、同様なケアが必要であるということです(注2)。
こうした理由から、海外では、「がんサバイバー」の概念が生まれました。
がんサバイバーとは?
「がんサバイバー」とは、がんの診断を受けたすべての人と、定義されます。
この概念は、1986年に米国で生まれました(注3)。
がんの診断を受けた人は、生涯を全うするまで、がんサバイバーであり、再発するかしないか、治ったか治らないかは関係ありません。
これは、がんの治療後に長期生存した人だけをサバイバーとする古い考えと異なった概念です。
“Survive”という単語を辞書で引いてみると、
ラテン語が語源であり、“Sur”は、「超えて」という意味で、それに、「生きる」という意味の文字を組み合わせてできているそうです。
つまり、サバイブとは、「超えて生きる」という意味になります。日本語の直訳ですと、「生き延びる」となりますが、それとはちょっと違ったニュアンスがあると思います。
先日、ある講演会で、乳がんのサバイバーの方のお話を聞く機会がありました。
その方は、30代で右乳がん、40代で左乳がんを発症されました。
ご自身が乳がんになった体験を次のようにお話しされました。
「私は、今まで、がんを治そう、治そう、克服しようとばかり考えてきました。でも、それはつらく苦しい闘いでした。がんから、いつも逃げようとしていたからです。がんサバイバーという言葉を知り、今では、私は自分が、がんサバイバーだと言えるようになりました。がんサバイバーとは、上乗せの命を生きること、新しい命が付け加えられる、命の新しい段階であり、今を感謝して生きること。マイナスからプラスの考え方でなく、プ ラスからプラスに考えられることを学びました」
あらためて、がんサバイバーとは、良い言葉だなと思いました。
がんサバイバーの時代~「がんを克服する」はやめよう~
我々が目指すべき現代のがん医療は、がんが、治るか治らないか、克服するか克服しないか、ということではなく、誰もががんになる時代に、がんを知り、より良く生きること、がん患者が安心して暮らせる社会をつくることだと思います。
がんサバイバーの概念は、海外では、がんと診断された人だけでなく、その家族、介護者も含めて広く定義されています。
がんサバイバーが、診断や治療を受けながら生きていくプロセス全般を、「がんサバイバーシップ」と呼びます。「がんサバイバーシップ」に対する取り組みは、日本では大幅に遅れてきました。
2013年4月、国立がん研究センターに、「がんサバイバーシップ支援研究部」が設立されましたが、まだまだ、日本全国的には、がんサバイバーに対する社会的認識や、支援体制、また、研究においても、大変遅れているといっても過言ではありません。
がんと向き合っているサバイバーの方たちを、克服した、克服しない、治った、治らない、と区別するのではなく、がんサバイバーの方を、優しく応援するような素敵な社会に一緒にしていきませんか?
参考
1.国立がん研究センター. 全がん協加盟がん専門診療施設の診断治療症例について10年生存率初集計. 2016:http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20160120.html.
2.がんサバイバー - 医学・心理・社会的アプローチでがん治療を結いなおす - Kenneth D. Miller (編集), 金 容壱 (原著, 翻訳), 勝俣 範之 (翻訳), 大山 万容 (翻訳) 医学書院2012年
3.全米がんサバイバーシップ連合; National Coalition for Cancer Survivorship: NCCS. 1986:http://www.canceradvocacy.org/.
(転載終了)※ ※ ※
再発すると完治はしない、再発したらもう終わり、初発で完治すれば勝ちで、再発したら負け、といういかにも判り易い二元論がまかり通っていることを、哀しいかな、まだまだ感じる。
何度も書いているけれど、再発したからといっていきなり人生が終わるわけではないし、それでがんという病に屈したというわけでもない。治療を続けながらうまく共存することが出来て、自分の人生を後悔なく生き切ることが出来れば、良いのではないだろうか。
そして、これも何度も書いているけれど、初発の治療を終えたら、必要以上に再発を恐れて生きていく必要もない。万一再発したら、それから対処すれば十分だと思うから。だからこそ初発の治療はきつくても頑張って乗り越えて頂きたいと思う。
再発してしまったこの病を完治させることが難しいことは重々承知している。けれど、日々の医療の進歩で良い薬が使えることになったおかげで、打ち克たなくともQOLを落とすことなく、普通の生活を数年のスパンで送ることが出来る。そのことがどれほど有難いことか。
がんになんか負けるもんか、私は打ち克ってやる、という戦闘的な言葉を使って自分を奮い立たせ、ギリギリまで積極的治療を続ける果敢な患者さんもおられるけれど、私はそうした言葉は使いたくないし、これまで使ってもこなかった。そして、自分の身体の声に耳を傾けながら、積極的治療の止め時は見極めたいと考えている。
なんといってはみても、自分の身体の中の自分の細胞なのである。大人しくしてもらいながらお互い共存していくためには、そうしたほどほどの付き合い方も大切ではないか。
私が今後、がんで命を落とすのかそれとも別の事故や病気なのか、は神のみぞ知るだけれど、その時、直接の原因ががんだとしたら、ああ、やっぱりロッキングチェアはがんに克てなかったのだ、とは思わないで頂きたいなと思っている。
それと同時に、よく頑張ったなどと言って頂くのもちょっと心外かな、とも。実際に10年を超える長期間の治療を体験していない方や、傍で寄り添ってくれた方たちでないと、本当のところはわからないだろう、とも思うから。
もちろん、死んでしまったらそんな私の戯言はどうやっても伝えようもないのだけれど、それよりもサバイバーとしての時間、病と共存しながら私という人間がどう生きたのかをただ客観的に見て頂ければとても嬉しいと思う。
人は生まれてきたら誰しも必ず死んでいかなければならない。いわば致死率100パーセント。今元気に生きている人が100年後にも生きているか、と言えばごくごく一握りの人を除けばほぼ皆無だろう。
この世の中にこのタイミングで、奇跡の積み重ねをもって生を受けたという事実、自分が生まれて、数十年という時間をこうして生かされている意味をもう一度考えながら、日々を大切に病と共存していきたい。サバイバーとして授かった新しい命を「超えて生きたい」と改めて思うのである。
私自身もずっと違和感を感じていたことが書かれていた最新号。大きく頷いたところが多かったので、長文だが、以下転載させて頂く。
※ ※ ※(転載開始)
がん診療の誤解を解く 腫瘍内科医Dr.勝俣の視点 (2016年3月7日)
がんサバイバーの時代 ~「がんを克服した」はやめましょう~
「私はこうやってがんを克服した」
「がんはこうやって克服する」
ネットなどを見ていますと、このような情報があふれています。
私は、この「がんを克服する」という言葉に、がんの専門家として、大変、違和感を覚えます。
がんは克服できる病気?
がんは、克服できる病気なのでしょうか?
作家のなかにし礼さんは、2012年に食道がんと診断されました。
先進医療の陽子線治療を受け、がんはいったん消失しました。
その当時、マスコミは、
「陽子線で食道がんを克服した!」
と一斉に騒ぎ立てました。
しかし、なかにしさんのがんは、2年半後に、リンパ節に再発、その後、なかにしさんは、手術や抗がん剤を受けました。
医学的に言うと、なかにしさんの食道がんは、陽子線でいったん消失したかのように見えましたが、実際には、ミクロレベルのがん細胞が残っていて、それが後になって、再発となって現れたということです。
このようにがんという病気は、いったん消えたかのように見えても、再発・転移を繰り返すことが特徴なのです。
手術や放射線治療でがんをいったん消失させることは可能ですが、その時点で、「治った」とは言えません。まだ、ミクロレベルのがんが潜んでいる可能性があるからです。ましてや、「克服した」とも、決して言えないということになります。
「克服」とは、困難に打ち勝つこと、と辞書にはあります。
そもそも、がんに勝ち負けがあるのでしょうか。
病気に勝ち負けがあるのでしょうか。
がんが再発しなかった患者さんが、「勝ち」で、
がんが再発・進行した患者さんは、「負け」なのでしょうか?
がんが再発しても、がんとしっかり向き合って、立派に生活してらっしゃる患者さんがいます。このような患者さんも立派にがんを「克服している」と思います。
がんが再発していないことの意味で、「がんを克服した」と言うこともおかしなことです。
がんは何年経っても再発する
がんの治療成績を、5年生存率の数字でよく表します。
がんは、5年を過ぎると再発率が減るので、がんの生存率は、おおまかな目安として、治癒率の基準として使われることがあります。
しかし、5年を過ぎたからといって、絶対再発しない、というわけではありません。
がんは何年経ってからでも再発します。
乳がんなどは、長い年月を経てから再発をするがんの代表でもあります。
私の経験した患者さんでも、手術後35年してから、乳がんが再発した方がいらっしゃいます。
また、他のがんの例では、早期胃がんで手術後、15年目に骨転移が見つかった患者さんがいました。
最近、国立がん研究センターは、がんの10年生存率を出しました(注1)が、10年生存率というのも、治癒率と全くイコールというわけではなく、あくまでもおおよその目安ということになります。
がんが再発する原因
がんが再発するとは、どういうメカニズムなのでしょうか?
初回の手術や放射線治療で、いったん、画像診断上はがんを消失させることができます。
がん細胞は、血管やリンパ管の中に入り込む性質があり、局所的な治療で、がんが消失できたかのように見えても、ミクロレベルで、がん細胞が潜んでいる可能性があります。血管やリンパ管は全身にはりめぐらされていますので、がん細胞が全身にめぐり、それが長い年月を経てから、他の臓器へ転移となって見つかることがあります。
これを再発と呼びます。
再発はどんながんでも起こることです。
どんながん治療をしても、絶対再発しないということはありません。
また、100パーセント再発を予防できる手段も定まっていないのが現状です。
このように、がんの性質、がん治療の現状からしますと
「がんを完全に治した」
ということは、医学的にもあり得ないこととなります。
もちろん、がんを克服する、がんを制圧するための、あらゆる試みは、現在でも、また、今後も続けられることと思います。
また、患者さんの「がんを克服したい」という願いを否定したいというわけではありません。
がんサバイバーの時代
海外では、がんで治癒した人、再発した人を区別しないで、がんと診断された人すべてを「がんサバイバー」と呼んでいます。
上記で述べたように、「がんの治癒」という言葉は絶対ではありません。また、がんが消失している状態、再発していない状態だからといって、医療上のケアが全く必要なくなるというわけではありません。
がんの初期治療が終了した患者さんは、いつ起こるかわからない再発への不安、手術や抗がん剤などの初期治療の後遺症、社会復帰に向けた就労の問題など、精神的問題、身体的問題、社会的問題など、取り組むべき様々な問題があります。
また、このような問題に対するケアは、再発していない患者さん、がんに現在かかっている患者さんと区別するものではありません。
がんと診断された患者さんは、がんが消えていようが、消えていまいが、同じように、精神的苦痛を抱え、身体的・社会的問題をもつため、区別することなく、同様なケアが必要であるということです(注2)。
こうした理由から、海外では、「がんサバイバー」の概念が生まれました。
がんサバイバーとは?
「がんサバイバー」とは、がんの診断を受けたすべての人と、定義されます。
この概念は、1986年に米国で生まれました(注3)。
がんの診断を受けた人は、生涯を全うするまで、がんサバイバーであり、再発するかしないか、治ったか治らないかは関係ありません。
これは、がんの治療後に長期生存した人だけをサバイバーとする古い考えと異なった概念です。
“Survive”という単語を辞書で引いてみると、
ラテン語が語源であり、“Sur”は、「超えて」という意味で、それに、「生きる」という意味の文字を組み合わせてできているそうです。
つまり、サバイブとは、「超えて生きる」という意味になります。日本語の直訳ですと、「生き延びる」となりますが、それとはちょっと違ったニュアンスがあると思います。
先日、ある講演会で、乳がんのサバイバーの方のお話を聞く機会がありました。
その方は、30代で右乳がん、40代で左乳がんを発症されました。
ご自身が乳がんになった体験を次のようにお話しされました。
「私は、今まで、がんを治そう、治そう、克服しようとばかり考えてきました。でも、それはつらく苦しい闘いでした。がんから、いつも逃げようとしていたからです。がんサバイバーという言葉を知り、今では、私は自分が、がんサバイバーだと言えるようになりました。がんサバイバーとは、上乗せの命を生きること、新しい命が付け加えられる、命の新しい段階であり、今を感謝して生きること。マイナスからプラスの考え方でなく、プ ラスからプラスに考えられることを学びました」
あらためて、がんサバイバーとは、良い言葉だなと思いました。
がんサバイバーの時代~「がんを克服する」はやめよう~
我々が目指すべき現代のがん医療は、がんが、治るか治らないか、克服するか克服しないか、ということではなく、誰もががんになる時代に、がんを知り、より良く生きること、がん患者が安心して暮らせる社会をつくることだと思います。
がんサバイバーの概念は、海外では、がんと診断された人だけでなく、その家族、介護者も含めて広く定義されています。
がんサバイバーが、診断や治療を受けながら生きていくプロセス全般を、「がんサバイバーシップ」と呼びます。「がんサバイバーシップ」に対する取り組みは、日本では大幅に遅れてきました。
2013年4月、国立がん研究センターに、「がんサバイバーシップ支援研究部」が設立されましたが、まだまだ、日本全国的には、がんサバイバーに対する社会的認識や、支援体制、また、研究においても、大変遅れているといっても過言ではありません。
がんと向き合っているサバイバーの方たちを、克服した、克服しない、治った、治らない、と区別するのではなく、がんサバイバーの方を、優しく応援するような素敵な社会に一緒にしていきませんか?
参考
1.国立がん研究センター. 全がん協加盟がん専門診療施設の診断治療症例について10年生存率初集計. 2016:http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20160120.html.
2.がんサバイバー - 医学・心理・社会的アプローチでがん治療を結いなおす - Kenneth D. Miller (編集), 金 容壱 (原著, 翻訳), 勝俣 範之 (翻訳), 大山 万容 (翻訳) 医学書院2012年
3.全米がんサバイバーシップ連合; National Coalition for Cancer Survivorship: NCCS. 1986:http://www.canceradvocacy.org/.
(転載終了)※ ※ ※
再発すると完治はしない、再発したらもう終わり、初発で完治すれば勝ちで、再発したら負け、といういかにも判り易い二元論がまかり通っていることを、哀しいかな、まだまだ感じる。
何度も書いているけれど、再発したからといっていきなり人生が終わるわけではないし、それでがんという病に屈したというわけでもない。治療を続けながらうまく共存することが出来て、自分の人生を後悔なく生き切ることが出来れば、良いのではないだろうか。
そして、これも何度も書いているけれど、初発の治療を終えたら、必要以上に再発を恐れて生きていく必要もない。万一再発したら、それから対処すれば十分だと思うから。だからこそ初発の治療はきつくても頑張って乗り越えて頂きたいと思う。
再発してしまったこの病を完治させることが難しいことは重々承知している。けれど、日々の医療の進歩で良い薬が使えることになったおかげで、打ち克たなくともQOLを落とすことなく、普通の生活を数年のスパンで送ることが出来る。そのことがどれほど有難いことか。
がんになんか負けるもんか、私は打ち克ってやる、という戦闘的な言葉を使って自分を奮い立たせ、ギリギリまで積極的治療を続ける果敢な患者さんもおられるけれど、私はそうした言葉は使いたくないし、これまで使ってもこなかった。そして、自分の身体の声に耳を傾けながら、積極的治療の止め時は見極めたいと考えている。
なんといってはみても、自分の身体の中の自分の細胞なのである。大人しくしてもらいながらお互い共存していくためには、そうしたほどほどの付き合い方も大切ではないか。
私が今後、がんで命を落とすのかそれとも別の事故や病気なのか、は神のみぞ知るだけれど、その時、直接の原因ががんだとしたら、ああ、やっぱりロッキングチェアはがんに克てなかったのだ、とは思わないで頂きたいなと思っている。
それと同時に、よく頑張ったなどと言って頂くのもちょっと心外かな、とも。実際に10年を超える長期間の治療を体験していない方や、傍で寄り添ってくれた方たちでないと、本当のところはわからないだろう、とも思うから。
もちろん、死んでしまったらそんな私の戯言はどうやっても伝えようもないのだけれど、それよりもサバイバーとしての時間、病と共存しながら私という人間がどう生きたのかをただ客観的に見て頂ければとても嬉しいと思う。
人は生まれてきたら誰しも必ず死んでいかなければならない。いわば致死率100パーセント。今元気に生きている人が100年後にも生きているか、と言えばごくごく一握りの人を除けばほぼ皆無だろう。
この世の中にこのタイミングで、奇跡の積み重ねをもって生を受けたという事実、自分が生まれて、数十年という時間をこうして生かされている意味をもう一度考えながら、日々を大切に病と共存していきたい。サバイバーとして授かった新しい命を「超えて生きたい」と改めて思うのである。