日々の平凡な生活の中にも、人には様々な楽しみや喜びがある一方、病気や老いなどの様々な苦しみや悩みもあるだろう。
そういう人間の意識界の喜怒哀楽とは全く異なる、動植物の無意識界がある。花が開くとき蝶が舞うように、自然界は人間のように計らいがない。金も欲しがらないし、愛も妬みも、つまり喜怒哀楽もない。あるがままにひたすら生きているだけだ。
人間界に生きている作者は、ムラサキシキブの美しい実が、風に揺れる様を見て、自然界のありのままの姿に感動しているに違いない。それは、下五の「のみ」に現われている。たおやか(嫋やか)とは、姿・形・動作がしなやかでやさしいさま。
この句から、どういう訳か私は、ドイツの作家レマルクの小説『西部戦線異状なし』を思い出してしまった。