ふと気づけば平成も25年が経過し、80’sもすっかり遠くなってしまった。今となっては、バブルの事ばかりが語られ、軽薄短小な時代であったかのように、後世の人たちは思っているのかもしれないが、80’sはそれなりに熱いものも感じさせた時代でもあった。特に、音楽をはじめとするポップ・カルチャーに関しては、新しい概念・表現が数多く生まれ、アングラではなく、立派なメインストリームとなった。要するに、マイナーで終わるはずのものが、メジャーになっていったのも少なくない、という訳だ。個人的には、音楽に関しては80年代の後半になると、、ジャンルや形態の細分化が進んで、マイナーとメジャーの区別が曖昧になったような気がした。売れるけどマイナー、というのが増えてきたのである。ウォークマンの登場に端を発したとされる聴き手の“孤立化”は、新しい市場を形成し始めていたのだった。
そんな(どんな?)1987年8月22日、熊本は阿蘇でオールナイト・ロック・フェスティバルが行われた。その名も「ビート・チャイルド」。J-POPという言葉はまだなかったけど、ニューミュージックという言葉も使われなくなっていた頃、当時の日本のロック界を代表するビッグ・ネームたちが一堂に会した音楽イベントである。80年代前半には、ジャズの野外フェスが長野県とかで開催されていたけど、野外ロックフェスは記憶にない。「ビート・チャイルド」は日本初の野外ロックフェスだった。
その「ビート・チャイルド」が、26年の歳月を経て、記録映画となった。映画のタイトルは『ベイビー大丈夫かっBEAT CHILD 1987』。
当日の出演者は、ブルーハーツ、レッド・ウォリアーズ、岡村靖幸、白井貴子、ハウンド・ドッグ、BOØWY、ストリート・スライダーズ、渡辺美里、尾崎豊、佐野元春など13組。なるほど、凄い顔ぶれだ。当日は72000人が集まったそうだが、それも納得。映画に登場するのは、この10組。貴重な映像である。
という訳で、『ベイビー大丈夫かっBEAT CHILD 1987』見に行ってきた。
この「ビート・チャイルド」が伝説のロック・フェスになったのは、日本初の野外ロック・フェス、豪華な出演者はもちろんだが、イベント当日の昼間から翌日の朝まで、一晩中降り続いた豪雨のせいもある。真夏とはいえ、一晩中豪雨にさらされた観客たちもよく耐えたなと思うし、会場スタッフも大変だったろうし、出演者たちも悪条件の中で演奏せざるを得なかった訳だが、豪雨のせいで逆にテンション上がってしまった感じもあり、結果的には熱のこもったパフォーマンスが繰り広げられ、素晴らしいイベントとなった。ここいらは、しっかりと映画に記録されている。
それにしても、改めて感じたのは、出演者たちのパフォーマンスの質の高さである。前述したが、豪雨のせいでテンション上がったというのはあると思うが、それを差し引いても、どの出演者も素晴らしい演奏ぶりだ。コンディションの悪い中でのスタッフの頑張りもあったのだろうけど、元々皆実力者なのだ。90年代以降、大規模会場でのコンサートは日常茶飯事となり、デカいPAとモニター、大人数の演奏者が当たり前となったが、1987年の時点では、まだそんな事にはなっていなかった。ごまかしのきかない中での生演奏が当たり前だったのだ。雨の為、モニタースピーカーが使えなくなった中で歌い続けた白井貴子とかを見てると、凄い人たちだったんだな、という思いを強くする。叩き上げというか何というか、この頃の彼らは決してバブリーではなかった。
実は、僕はこの「ビート・チャイルド」というイベントの事を、全く知らなかった。覚えていないのではない。知らなかったのだ。これだけの規模のイベントなのに知らなかった、とは不思議だが、とにかく知らなかった。つい最近、妻から映画の事を聞かされてから知ったのである。何故知らなかったのだろう? この頃は、音楽雑誌も読んでたし、あれこれ情報交換する友人もいたんだけど。豪雨に見舞われて大変だった、なんて記事にならなかったのか? テレビや新聞では紹介されなかった、というのは分かるんだど。とにかく、何故知らなかったのか。僕だけが知らなかったのか、それとも一般には知られていなかったのか。謎である。
この『ベイビー大丈夫かっBEAT CHILD 1987』は、あくまでも記録映画であるので、豪華な出演者の演奏も聴けるけど、豪雨に見舞われた会場と観客の姿を伝えるのが主眼と思う。とにかく、皆よく耐えたよなぁ。確かに豪雨ではあったし、雨で体調崩して救急車で運ばれた人もいたようだけど、それ以外には大きな混乱はなかったみたいで、主催者側もほっとした事だろう。映画の終盤、イベントのプロデューサーが登場して、雨が降って申し訳ありません、とお詫びしてたけど、こればっかりは仕方ないよね(笑) 出来れば、この日会場にいた人の話も聞いてみたい。
ま、そんな訳で、1987年のイベントから26年後のいま公開された『ベイビー大丈夫かっBEAT CHILD 1987』は、日本初の野外ロック・フェスの記録、というだけでなく、80’sの音楽シーンの貴重な記録でもある。日本のロックが売れ始めた頃、彼らはまだ本気でロックしてた、というのがよく分かる。今ではすっかりバラエティ・タレントになってしまった大友康平やダイヤモンド・ユカイにしても、この頃は立派なロッカーだった。ほんと、時代は変わってしまったなぁ、大丈夫かっ?(爆)
あ、ご存知と思うけど、この『ベイビー大丈夫かっBEAT CHILD 1987』テレビ放映やDVD化の予定は全くないらしい。見たければ、いま映画館に行くしかないという訳だ。そんな事言ってて、一年後にDVD出たりしたら大顰蹙だけど(爆)、ま、とにかく、興味ある人は是非お近くの映画館へ^^