イエスでお馴染みのジョン・アンダーソンは、バンドの活動と並行して、ソロ活動も行っていて、それなりの評価を受けているようだが、このアルバムについてはどうだろう。語られる事も少ないのではなかろうか。かなり熱心なファンでないと、このアルバムの存在さえ知らないかもしれない。
『In The City Of Angels』1988年発表。この時期、ジョン・アンダーソンにとってはちょっとした激動期だった。1987年のイエスのアルバム『ビッグ・ジェネレイター』の評判がイマイチで、元々クリス・スクワイアとトレバー・ラビン主導によるイエスに不満だったジョン・アンダーソンは脱退を表明する。当時、公式にそういう発表があったのかどうか、今となっては覚えてないが(笑) その後、ジョン・アンダーソンは、イエス黄金期のメンバー、すなわち、リック・ウェイクマン、スティーブ・ハウ、ビル・ブラフォードと共にABWH(アンダーソン、ウェイクマン、ブラフォード、ハウ)を結成して、黄金期イエスの再現を目指したアルバム『閃光』を1989年に発表、ツアーも行った。そんな時期、『ビッグ・ジェネレイター』と『閃光』の間に、ジョン・アンダーソンは、ソロ・アルバムも制作していたのだ。なんと精力的だったことか。
ロサンゼルスの事を”City Of Angels"と呼んだりするが、この『In The City Of Angels』も、やはりロサンゼルスで、スチュワート・レビンのプロデュースのもと、デビッド・ペイチ、ジェフ・ホーカロといったTOTOのメンバーや、ラリー・ウィリアムス、ジョン・ロビンソン、ポール・ジャクソンJr.といった人たちをバックに配して録音されている。ジョン・アンダーソンとLA或いはTOTO、という組み合わせが、のけぞる程に意外であったが、実際に聴いてみると、それほどミスマッチ感はない。どんな曲でも、ジョン・アンダーソンが歌えばイエスになる、とファンが言うのを聞いた事があるが、そういう意味ではジョン・アンダーソン本領発揮、という感じの内容であり、イエスでもTOTOでもない、間違いなくジョン・アンダーソンのアルバムである。LPの帯にデジタルサウンド云々と書いてあるが、確かにシンセの比重は高いけど、打ち込みではなさそうで無機質な感じはないし、ジョン・アンダーソンの歌との相性も悪くない。良いアルバムではなかろうか。
このアルバムが発売された頃、僕は大阪に住んでいた。まだ若造で、もちろん初めての転勤で、何もかも新鮮に感じられた時期だった。毎日、営業車で走り回っていたが、大阪の営業車はFMが聴けたので(前任者が自費で取り付けたらしい)、いつもFM大阪を聴いていた。そこで、この『In The City Of Angels』がよくかかっていたのである。特に、シングル・カットされたかどうか覚えてないが、A面トップの「Hold On To Love」がヘビロテだったような。確かに、ジョン・アンダーソンのイメージとは違う、軽やかなサウンドであったが、何度も聴いてるうちにLPを買ってしまった(笑) こういうの実は多いのだ。FMで聴いて気に入って買ってしまうというパターン。気のせいか、FM大阪は独特の雰囲気があって、選曲も東京とは違っていたように思えた。FM大阪の影響で、よう知らんけど買ってしもた、というのが実は結構ある(笑) ゴンチチなんかもそうだな(笑)
ジョン・アンダーソンは、後のインタビューで、LAのミュージシャンとの仕事は刺激的で、色々勉強させて貰った、とフツーに語っていたが、それなりに刺激を受けたのは事実らしい。その経験が翌年の『閃光』に結実したのかどうか、は分からないけど(笑)
余談だが、1987年の『ビッグ・ジェネレイター』、1988年の『In The City Of Angels』、1989年の『閃光』、この3枚とも、アルバムの最後は、アコギ或いはシンセをバックにジョン・アンダーソンが歌う曲で締めくくられている。『ビッグ・ジェネレイター』のラスト「Holy Lamb」は一応バンドっぽい音になってるけど、他の収録曲とは違って、なんかソロ曲みたいな雰囲気だし。単なる偶然かもしれないが、ジョン・アンダーソンが意図的にやったのだとすれば、この3枚は実はセットで3部作なのかも、なんて思えてしまう(笑) 内容もコンセプトも異なる3枚が、ラスト曲のせいで結局似たような印象を与えているのであれば、これはこれで凄い。ジョン・アンダーソン恐るべし(笑)
さらにどうでもいいことだが(笑)、『閃光』でのクレジットは、前述した通り、アンダーソン・ウェイクマン・ブラフォード・ハウ、と、よくある、メンバーの名前を並べたバンド名となっているが、この場合、名前の順番とか、どういう基準で決めているのだろうか? 実は昔から不思議なのだ(笑)
この後、ジョン・アンダーソンはイエスに復帰し、メンバー変遷がめまぐるしい中で活動を続けるも、どういう訳かイエスを解雇されてしまい。ジョン・アンダーソンがいなきゃイエスは呼べないだろう、なんて思ってたら、なんとトレバー・ラビン、リック・ウェイクマンと組んで、ツアーしたりしてたらしい。トレバー・ラピンと再び組むとは思わなかったので、かなり意外だった。相変わらず、ヘンな人である。