最近買ったCDから(唐突)
ブリティッシュ・ロック界の最重鎮バンドのひとつであるジェスロ・タルは、1968年デビューなので、56年間活動している事になる。多少のブランクがあったとはいえ56年は凄い。しかも、こうして新作も発表している。ストーンズもポール・マッカートニーも凄いけど、ジェスロ・タルも実は凄いのだ。お忘れなく(笑)
という訳で、重鎮ジェスロ・タルの新作である。最近購入して聴いたけど、出てたのは去年。前述の通り、ジェスロ・タルはデビュー以来56年になるが、2003年のクリスマス・アルバムを最後に新作を長く出しておらず、イアン・アンダーソンも高齢だし(1947年生まれらしいが、この年代のミュージシャンは多い)、ここ10数年のリリースは過去作品のデラックス・エディションの類ばかりだし、イアン・アンダーソンがソロ名義で名作『ジェラルドの汚れなき世界』の続編を2作発表したり来日公演を行ったりはしてたけど、もうジェスロ・タルは終わったのかと思っていた。が、2022年に18年振りとなるオリジナル・アルバム『ザ・ゼロット・ジーン』を発表して復活(実は知らなかったが、2014年にバンドの無期限停止が発表されたが、2017年に復活宣言してツアーも行ったらしい)、その翌年に本作『ロックフルーテ』に至る訳だ。イアン・アンダーソンにどういう心境の変化があったのか不明だが、精力的に活動してるのは嬉しい。
で、『ロックフルーテ』である。ジェスロ・タルのアルバムはイアン・アンダーソンのアイデアとコンセプトに基づいて制作されていて、本作も同様であり、これはデビュー以来変わりなし。その時点でのイアン・アンダーソンの興味や心境に左右されるのだろうけど、毎回ユニークなコンセプトが設定されていて、今回はというと、スカンジナビアの多神教信仰、という事になろうか。知らなかったけど、スコットランド生まれのアンダーソン姓の人たちのルーツはスカンジナビアにあるのだそうで、以前よりスカンジナビアの文化に興味を持っていたイアン・アンダーソンは、その多神教信仰の伝承などに登場する神々をテーマにした曲を用意して臨んだらしい。いわば、自分のルーツに向き合ったという事だろうか。CDのブックレットには、イアン・アンダーソンによる、ここいらの解説と丁寧な翻訳が掲載されていて、非常に興味深い。アルバム聴かなくても、解説読んでるだけでも面白いかも(笑)
話は逸れるが、僕は子供の頃、家にあった”少年少女世界の名作文学全集"に収録されていた『北欧神話』というのを読んだ事がある。この物語が、今回の『ロックフルーテ』のテーマであるスカンジナビアの伝承とかなりの部分で共通していて、オーディン、トール、ロキといった、『ロックフルーテ』の曲に登場する名前には記憶があった。スカンジナビアも11世紀くらいまでは、多神教信仰だったらしいが、結局一神教であるキリスト教に駆逐されたようだ。それまではスカンジナビアも平和だったのだろうな、とつい夢想してしまう(苦笑)
で、話を戻すと、『ロックフルーテ』には、スカンジナビアの多神教信仰の伝承にアイデアを得たイアン・アンダーソンのオリジナル曲が12曲収録されている。その12曲がどれも素晴らしい出来栄えで、ただ良い曲というだけではない、格調高く気品と文学性に溢れ、ながら聴きなんて許されないような、正座して襟を正して聴くべきでは、と決して強要する訳でないものの、静謐で敬虔な雰囲気に満ちていて、かといって堅苦しくもなく、クラシック風だったりスピリチュアル系みたいだったりといった、難解でも独りよがりでもマニアックでもなく、基本的にロック、それもジェスロ・タル独特のロック・サウンドが展開されている。ほとんどの曲でリードするのはフルートで、ハードなギターのバッキングにフルートのリフが乗るイントロ、間奏などで聴かれるフルートとギターのユニゾン、等々はジェスロ・タル以外の何者でもない。感触としては、70年代後半のトラッド3部作(『神秘の森』『逞しい馬』『ストームウォッチ』)の頃に近いかな。といっても同じではなく、あの当時の作品からプログレ風味を取り除いたような感じ。ところどころで聴かれるギターソロも素晴らしい。レコーディング・メンバーつまり現在のジェスロ・タルは、ブックレットの写真を見ると、失礼ながら高齢の人が多いようだが(笑)ギターの人だけ若いみたいで(と言ってもアラフォーかな?)、この人のプレイが実に素晴らしいのだ。やはり、イアン・アンダーソンだけでは名作は作れない、というのを実証している。ジェスロ・タルはチームなのだ。
という訳で、ジェスロ・タル久々の傑作である。これだけの作品がまだ作れるジェスロ・タルというかイアン・アンダーソンはとにかく凄い。ブックレットにの解説によると、当初、本作はフルート中心のインスト作として構想されていて、タイトルも『Rock Flute』だったそうだが、本作のテーマから”ラグナロク”という言葉が浮かび、運命を意味する”ロク(Rok=本来はウムラウト記号付き)”及び”Flote”に置き換えて『RokFlote』となったとのこと。またジャケットも”Rock”=岩のイメージでデザインしたらしい。そういった所にも遊び心が感じられるのもシェスロ・タルというかイアン・アンダーソンらしくていいな^^
蛇足だが、以前ブラックモアズ・ナイトのCDを聴いてたら、とてもフルートが印象的な曲があって、これイアン・アンダーソンみたいだなぁ、と思ったら本当にイアン・アンダーソンだったので驚いた、という経験がある。別に驚く事ではないのだが(笑)、それだけ彼のフルートは個性的なのである。そんなフルートも十分堪能できる『ロックフルーテ』、とにかく素晴らしいので是非(誰に言ってんだか。爆)
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