シカゴが今月来日公演を行う。去年は、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースとのジョイントだったけど、今回は単独公演だ。僕は、19日の東京国際フォーラムでのコンサートに行く予定。去年の時も、ジョイントとはいえ、アンコール含めて2時間近くのステージであり、今回は単独ではあるが、もしかすると、去年とほぼ同じ内容かもしれない(笑) ま、それはそれでいいでしょう(笑)
シカゴといえば、“ブラス・ロック”という肩書きがついて回る。しかし、よく考えてみると、“ブラス・ロック”とは一体何なのか? “ロック・バンド+ブラス・セクション”なんて、単純なものではあるまい。ま、いい機会であるので、ちと考察してみたい(えらそーに)
で、考察するにあたってのテキストは、下記4枚。
偉大なる星条旗/シカゴ Chicago Ⅸ - Chicago's Greatest HIts
Blood, Sweat & Tears Greatest Hits
追跡/チェイス Chase
イフ If
他にも、“ブラス・ロック”にカテゴリーされているバンドとしては、バッキンガムスとかライトハウスとかがあるが、どちらも聴いた事ないし、もちろん音源も持っていないので、割愛させて頂く。また、アース、ウィンド&ファイアとかタワー・オブ・パワーとかは、ロックというよりファンクだろう、という事で、やはり割愛する。KC&ザ・サンシャイン・バンドも、似たような理由で(笑)割愛する。
さて、この4組、同じ“ブラス・ロック”と呼ばれてはいるが、その音楽性はかなり異なる。あえて一言で片付けるなら、「ポップなシカゴ」「ソウルフルなBST」「ジャズ寄りのチェイス」「ジャズ・ファンク的なイフ」という事になろうか。
かなり強引な意見だけど、ロックに於ける花形楽器は何と言ってもギターであり、管楽器はジャズやR&Bでの花形である。という事は、ロック・バンドがブラス・セクションを導入する場合、ロックにはない要素、つまり“黒っぽさ”を求めている、という事であるはずだ。そう考えると、この4組の中では、シカゴはちと異質である。
ご承知の通り、シカゴは歴史が長くヒット曲も多い。テキストとして挙げた『偉大なる星条旗』は初期のシングル集であり、ポップでキャッチーな曲が多く収録されているのは当然なのだが、曲によってはやや強引とも思えるブラス・アレンジが、シカゴならではの個性となっている。「長い夜」なんかはともかく、「君と二人で」みたいな曲に、果たしてブラス・アレンジが必要だったのか、と思ったりもするが(笑)、このブラス・セクションによる間奏があるからこそシカゴなのだ、とも言える訳で、ブラス・セクションをギターやキーボードと対等にしてしまった、というのはやっぱり凄い。シカゴはまず曲ありき、のバンドで、メンバーがそれぞれテイストの異なる曲を作ってくる訳で、それを並べるだけだと、印象が散漫になりかねないのだが、個性的なブラス・セクションが入る事によって、シカゴの曲としての統一感が生まれるのである。
そんなシカゴと、ひと頃は“ブラス・ロック”として並び称されていたのが、BSTだ。このバンドは、ご存知の通りアル・クーパーによって結成されるものの、1stを出した後クーパーが抜けてしまい、ボーカルにデビッド・クレイトン・トーマスを迎えて発表した2ndが大ヒットとなった。当然、ここに挙げた『グレイテスト・ヒッツ』の曲のほとんどはトーマスが歌っているが、はっきり言ってしまうと、BSTのウリはトーマスである。曲も結構書いてるし。よって、シカゴほどブラス・セクションが前面に出てくることはない。そういう点では、アル・クーパー時代の曲の方が、ファンキーなテイストを感じさせたりして、クーパーの狙いがよく分かるような気がする。トーマス加入後は、トーマス自身がソウルフルなので、ブラス・セクションを導入する事によって期待される“黒っぽさ”は、希薄になってしまった。
チェイスに関しては、ブラス・セクションの構成がトランペット4人であり、高音域が目立つ感じがする。ボーカルがやや弱いので、余計にこの高音域が気になる(笑) トランペットが入ってくる所は、和声がもろにジャズという印象。ブラス以外の楽器隊は、特にファンキーとかソウルフルとかいう感じではないので、そこにトランペットが絡むと、一種異様な雰囲気だ。ヒットした「黒い炎」なんて、トランペットがひたすら耳に残る。まぁ、悪くはないが(笑)、曲も今イチだし、何を狙ったのかが見えにくい。ただ、ミョーにテンションの高いトランペット隊を聴いてると、ライブは凄いのかも、と思わせる。
さて、最後はイフである。フォリナーのデニス・エリオットが在籍していた事は、一部のファンにはよく知られている(笑)。かなり意識的に、ロックとジャズの融合を狙ったという印象。基本は歌中心だけど、ブラスが絡むインスト部分はしっかりジャズだ。ソロも多い。8ビートに留まらないリズムも多彩。オルガンはなかなかファンキーだし、“ブラス・ロック”というより“ジャズ・ロック”かな。ある意味では、ブラス・セクションを導入した必然性を最も感じさせるのが、このイフかもしれない。一般には知られてないバンドと思うが、是非ご一聴を。
ブラス・セクションを、ゲストではなくメンバーとしてバンドに入れた以上、アレンジにもブラス・セクションを活かさなければならない。あくまでロックを志向するバンドの場合、それはかなりの制約というか足かせになる。それを逆手にとったのがシカゴであり、ブラスありきでアレンジを組み立てたのがイフといった所か。一口に“ブラス・ロック”と言っても、スタイルは様々だ。
元祖“ブラス・ロック”は、ビートルズの「ガット・トゥー・ゲット・ユー・イントゥー・マイ・ライフ」と言われる。が、この曲、ブラスがファンキーなテイストを醸し出しているとは言い難い。でも、ポール・マッカートニーが導入するブラス・セクションは、ジャズだのR&Bだの言うのとは全然違う次元のものだ、とも耳にする。ブラスだろうが何だろうが、ミョーな色気出さずに、感性の趣くままに使えばいい、というのも確かな訳で、そういう点でも、ビートルズいやポール・マッカートニーは偉大である(笑)。で、その精神に最も近いのが、シカゴではないか、という気がする。
それにしても、“ブラス・ロック”の精神を最も具現化してるのは、実はこういうの↓ではないか、なんて思ったりもする今日この頃。