Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

親交 30

2019-04-09 11:45:44 | 日記

 ベンチに腰掛けると、眼下の濠にある噴水の噴き上げる水が四方に白く弧を描き飛び散って、深く濃い水の色に落ち込んで行き涼し気です。「気持ちいいなぁ。」「良い気候だ。」2人の男性は共に頬を撫でて行く初夏の風を堪能していました。何時しかミルは、水に落ちる噴水の粒一つ一つの動きを凝視するようにしてじっと物思いに沈んでいました。そんな彼の傍らに腰かけ初夏の風景を眺める紫苑さんも、また亡き細君の面影を感じられ無いではいられ無いのですが、紫苑さんには新たな交際が始まった若い友人が横にいました。穏やかな笑顔で若い友人を観察していた紫苑さんは、ふいっと微笑みを漏らしました。

 「鷹雄君、」

と、彼は不意にミルの偽名を呼びました。「何だか困った事でもあるのかね?」彼は当てて見せようか、というと、ミルにこんな事を言いました。

「君は恋に悩んでいるね。」

言われたミルこと鷹夫は、唖然とした切り、驚きの表情を隠せませんでした。

「そんな事…。如何して紫苑さん、分かりました?」

と、案外正直に本音を吐露する鷹雄です。すると紫苑さんは目を細めてにゅんと笑うと、やっぱりねといかにも嬉しそうに笑いました。

「こんな良いお天気と風景に囲まれて、君ぐらいの年代の子がそんな顔をして沈黙しているのは、恋の病に決まっているからね。」

正直だねぇ、君のは。如何にも恋する若者の物思いの風情だったよ。そう紫苑さんは言ってから、声に出してはははと笑うのでした。

 そんな紫苑さんに対して、ミルはみるみる顔を赤くすると頬を染めて、酷いなぁと不満を口にするのでした。

「いや失敬。私にも君の様な年代に、同じような悩みを持ったものだからね。」紫苑さんは微笑みながら、遠い昔を思い起こすような夢見る瞳に変わりました。