「もう大分いいんだよ。」
心配かけて返って申し訳ないね。そんな事を言いながら紫苑さんが鷹雄を家の中に招き入れようか如何しようかと内心迷っていると、
「まだ顔色が悪いですよ。」
「僕に何でも言いつけてください。料理でもしましょうか?」
何か必要な物を買って来ましょう。何か食べたい物は無いですか?そう気さくに彼が話すので、いやいや、そんなに気を使ってもらっては困るよ。まぁ、上がって一杯茶でも飲んで行ったらと、紫苑さんは玄関内へ鷹雄を招き入れるのでした。
ぼさぼさの髪の毛にパジャマ姿の紫苑さんです。鷹雄はお邪魔して返って悪かったんじゃないですか。と言うと、何か食べておられますか?、そう言って近くのお店で買って来た、お握りやパンやお茶などの食料品が入ったナイロン袋を差し出しました。
「こんな物ですが、何かの足しに召し上がってください。」
「いやぁ、これはこれは、気を使わせて悪いね。では、ありがたく使わせて頂ますよ。」
紫苑さんはにこやかにそう言いながら、流れに任せて思いの外素直に彼の手から袋を受け取りました。
「よければ台所で夕飯に何か作りましょう。普通に食事は出来ますか、お粥の方がよいですか?」
と案外気の回る事が言える鷹雄なのでした。
この言葉に、『この歳にしてはよく気の付く青年だなぁ。』紫苑さんはそう思いました。そして、彼は1人住まいの自分の家に他人を入れてしまった事を危ぶんでいました。またその一方では、鷹雄の優しい心遣いをしみじみと嬉しくも感じていました。玄関に立つ彼は暫し複雑な感情に囚われていました。