「大丈夫ですか?」
2、3日して、紫苑さんの家に電話が掛かって来ました。これは、約束していた日に紫苑さんが図書館に現れず、紫苑さんの電話を取ったからという司書の人から、紫苑さんが風邪を引いて来れなくなった旨伝言された事を聞き、その事を心配して電話して来た鷹雄ことミルの電話でした。
「いやぁ、ははは、鬼の霍乱というやつでね。」
紫苑さんは言葉少なに電話の先の相手に告げました。
「心配する事はないよ。もう粗方いいんだが、念の為もう1日家で静かにしている事にしたんだ。」
来週は図書館に行けるだろう。そう言うと早々に、じゃあねと紫苑さんは電話を切ったのでした。
ここでほうっと溜息を吐いた紫苑さんは、何だかまだ一向に元気がありませんでした。
『人間無理はする物じゃ無いな。』
紫苑さんは思いました。若い鷹雄君に付き合ってテキパキと動いたり、あれこれと頭を使うのは正直言うと彼にとってかなり負担になっていました。
紫苑さんは電話に出る為起きたついでに台所に寄り、急須にこぽこぽと湯を注ぎ一杯のお茶を入れると、それを持って廊下に出ました。それからテレビのある居間に立ち寄ると、彼は静かに居間に置いてあるソファーに腰かけてお茶を啜りました。溜めてあった新聞を開くと、ここ2、3日の記事を読んでみます。彼は再びほうっと溜息を吐くと、「悲しくて悲しくて…。か。」と歌詞の文句を呟き、歌詞同様に虚ろな気分で何気なくテレビのスイッチを入れるのでした。