あの人もきっと、自分の祖父と同じ独り身のお年寄なのだ。そう思うとミルは、以降、公園で見かける紫苑さんの姿に我知らずの内に注意が向くのでした。彼の見掛ける紫苑さんはそれこそ文字通りの漂泊の人でした。彼は世間の荒波に晒されて漂う1個の魂そのものなのでした。今にもこの地球の大気に消え行ってしまいそうな彼の儚げなオーラに、何時しかミルは故郷の自分の祖父の姿を彼に重ねて見るようになっていました。旅先で出会ったのも何かの縁、そう思ったミルは紫苑さんに少し関わってみることにしたのでした。
『袖振り合うも他生の縁』だね。後に紫苑さんからそんな地球の諺を教えてもらう様な関係になるとは、この時の彼には予想だにしない出来事でした。
ミルが紫苑さんに気付いてから、数カ月の内に彼は紫苑さんにコンタクトを取ったのでした。それは寒い冬の気候が続く何日かの間、紫苑さんが全く家に閉じこもった切り外出してこないという事態に、ミルが相当気をもんで案じた結果でした。この間のミルは紫苑さんの身の安全を思うと一時も気が休まる事が無かったのです。ある日など、遂にミルは紫苑さんの家の庭にそうっと忍び込み、窓によると中を覗いて部屋の様子を覗った程でした。そこには暖かな室内でソファーに寛ぎ、暢気に面白そうなテレビを見て微笑む紫苑さんの姿がありました。ミルはほっと安堵の溜息をついたのでした。
『1人家で儚くなっているのかと、すっかり心配してしまった。』そんな事を思わず内心呟いて、ミルは程無くその場を離れ、ここ宇宙船へと戻って来たのでした。
「ミル、どこへ行っていたんだ。」
捜したんだよ。そう副長のチルに声を掛けられたミルは、何時もの様に地球の図書館へ調べ物をしに行っていたのだと上手く副長を誤魔化すのでした。チルの方はそんなミルの答えにふふんと意味ありげに笑っただけでした。が、部下の行動については何時もきちんと把握している副長の事、案外自分の行動も、全て知られているのだろうとミルは何となく予測するのでした。
「まぁいいよ。」
副長はそう言うと、例の特殊任務の件だがと、早めに結果を出してくれないかと彼に催促するのでした。