その後4月に入り、図書館ではしばしば交友を深めるミルと紫苑さんの姿が見られるようになりました。見た目が老若の2人です。親しげな2人の様子に傍からは実の祖父と孫に見られました。そんな2人が真面目に学問の話をして、にこやかにひそひそと意見を交わし合っているのですから、気付いた周りの人間は微笑ましい目で彼等を眺めていました。
時が過ぎ、2人が他人同士と知る人が出てくると、彼等の様子が気になる人も少なからずいるようになりました。それとなく2人の会話に耳を聳てる人も目立つようになった頃、ミルは館の外、戸外の公園の散策路へと紫苑さんを誘いました。
『変に勘ぐられては敵わない。』
紫苑さんにも良くない結果を招くだろうと、ミルは考えたのでした。
公園は新緑の季節に入っていました。散策路の側には濠が巡り、濠には公園に植えられた木々の濃い緑陰が映り、時折水中の鯉が作り出す波紋が幾重にも重なって広がって行きます。2人は広々とした濠全体が見渡せる高台のベンチがある広場までやって来ました。そこには今を盛りとばかりに桃色の塊となったサツキの花が咲き誇っていました。その他にも紅色や白などのサツキの花が綺麗にまあるく剪定されて、辺りに毬状に寄り集まって植えられています。登り道を上がって来た2人はここで一息つきました。