「お祖父ちゃんは…、長く生きて来て、…商売も上手いし…。」
如何いったらよいのだろうか、私は未だ自分の言いたい事がよく分からず悩んでいた。
「お金だって沢山儲けたんでしょう。」
思わずポツリと言ってしまった。その為私は言い訳の様に、祖母がそう言っていたと付け足した。
「お祖母ちゃんだって、お金を沢山持っているし、…。」
美人だし…。そう話を続けながら、私は頭の中で自分が本当は何を言いたいのかその答えを見つけようとしていた。そうして答えが見つかったなら、何とか自分の話を上手く纏める方向へと導いて行きたかった。
「お祖父ちゃんは、良いお嫁さんを貰って、…。」
しかし話すに連れ、私の話は益々収拾が付かなくなってしまった。私は思わず瞼を閉じるとげんなりした。我ながら顔に出たなぁと感じた。
祖父の方はと言うと、あれがそんな事を、お前にね、話したのかいと、おやまぁという様な、やや意外そうな顔をしたが、彼は落ち着いていた。そうして、やや間を置いてから未だ話の筋道が立たない私に、あれは今は、…そう持ってもい無いと思うがなぁ。と感想めいて言った。
「そう、あれは、お祖母ちゃんはもう金持ちじゃないと思うが。」
そう祖父は、はにかむような笑顔を私に注ぐと優しげに語りかけた。私にはこの祖父の言葉は意外だった。祖母が私に嘘を吐くとは思えなかったからだ。そこで、えっと驚くと、でも、お祖母ちゃんは私にそう言っていたと祖父に訴えた。
「お祖母ちゃんが嘘を吐く事は無いでしょう。」
しかも孫の私にと。だから彼女はお金が有るのだ、それも彼女の言葉を借りると、膨大にだ。「膨大」な、「蓄え」、そういった言葉を祖父に伝えてみる。すると祖父は喜ぶどころか顔を曇らせた。お前にそんな事を言ったのかい、あれがと、彼は機嫌を損ねた雰囲気になった。祖父は一旦私から顔を背けて、向こうを向き何か考え込んでいる風だったが、再び私に向き直ると、祖父の眉間には青筋が立ち、目も尖らせていた。
私にはこの祖父の顔に現れた感情の変化もまた意外だった。祖母の難しい言葉を覚えて話した事や、商売人である祖父に蓄財が多くあるという話題は、彼に喜ばれ、その話自体が孫の私の彼に対する追従になると思っていたからだ。
『今は無い』、そう言えば、お祖母ちゃんもそう言っていたかなと、如何やら私はここで肝心な事を思い出した様だ。そこで祖父にそう言うと、ほれごらんと祖父は微笑んだ。
でも、昔は有ったんでしょう、お祖母ちゃんにも。そう私が話を蒸し返すと、祖父は再び機嫌を損ねた様子で、もうこれ以上はあれの話はいいと一言いった。
「お前それだけ口が回るなら、心配する事は無いな。」
祖父はそう言うと、「2階に行って寝なさい。一人でも大丈夫だったな。重たくなって、私はここまでお前を運んでくるのがやっとだった。」そう言うと、後は姉さんに任せるよと言い捨て、彼は階段から離れ居間へと向かって行った。