Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

卯の花3 70

2020-11-10 12:02:13 | 日記
 そんな一連の祖父の動作が、酷く私の笑いの壺を刺激した。もう、お祖父ちゃんたら、何をおどおどしているのだ、と私はキャッキャと、とても可笑しいと言って笑った。

 すると、祖父は瞬く間に顔色を白くして、無表情な顔を浮かべた。その後、私の極めて愉快な様子を、彼はその静かでニヒルな微笑みと共に眺め始めた。さうして彼の目は自虐的な色を浮かべ始めた。そこで私は祖父を怒らせたのだなと感じた。

 「お祖父ちゃん、何かあったの?。」

と私は訊いた。祖父の顔色の変化に、その場の雰囲気、彼の気持ちの好転を図ろうとしたのだ。すると祖父は、また一段と皮肉的な笑いを漏らし、目も嫌気が増した感じとなった。彼の嫌悪が増したのだと私は思った。

    祖父は私から彼の顔を一旦背けた。再び私に向き直った祖父は、普段通りの優しい笑顔に戻っていた。私はほっとした。

     さて祖父は、笑みながら「命短し…、」と口ずさんだ。

「お前この調子では、明日の日の目は見れないだろう。」

穏やかで優しく、にこやかな彼の声だ。祖父のご機嫌は良いようだと、私は感じて更にホッとした。

「恋せよ乙女だ…」、祖父は微笑んでいたが、何だか寂しそうでもあり、元気が無いようにも私には感じられた。私は、お祖父ちゃん何かあったの?、と彼に尋ねた。「否、何故だね。」と祖父は尋ね返してきた。私は「元気が無さそうだから。」と答えた。

卯の花3 69

2020-11-10 12:02:13 | 日記
 さて、階段に1人取り残された形になった私は、父に言われた上に祖父に迄も言われたのだと、ふうっと溜息を吐いた。そうして、では2階に上ろうかと体の向きを変えて階段の方に私の腹を付けた。

 片手で階段の縁を掴み、もう片方の手を伸ばすと、私は上の段に手を載せ、自分の足を踏ん張ってみる。そうやって一足毎に階段を上がって行く体制を整えた。上の段に片足を上げて見る。その足に力を込めてうんと踏ん張ると私の体は上の階に上がった。[良かった。』、私は思った。何となく、台所から始まって自身の体の不調を感じていたが、これで思い違いだったのだろうと私は考えを変えた。私は元気だ、疲れていたのだろう。

『やれば出来るじゃないか!』

これこの通り。そう自分自身納得しながら、私は次の2段目に取り掛かった。足に力を入れると、こちらの階もクリア出来た。私は更なる自信を深めた。では、3段目に…。

 そう思っていた矢先、「大丈夫なのか。」と祖父の声が私の身近でした。あれっと思い、私が声の方向に顔を向けると、そこには如何いう物か祖父の姿が有った。先程と同様だ。私の横、階段に祖父は彼の身を持たせかけていた。全く先程と同じ彼と私の間合い、状態になっている。時が戻ったのかと私は錯覚したくらいだ。

 私はおやおやと意外であり不思議に思うのだが、この現在の状態にさして大した考えは浮かんで来なかった。

「智ちゃん、大丈夫かい?。」

そう祖父が私の顔を見詰めて尋ねて来るので、私は反射的に「大丈夫。」と答えた。大丈夫じゃないと思うがなぁと祖父。そうして彼は、私にお前具合が悪いんだろうと訊くので、私は具合は悪くないと答えた。すると祖父は極めて深刻な顔付きをした。

 「いや、お前は具合が悪いんだ。」

祖父は言うと、危ないなぁと呟いた。どこか痛むかい、頭は?と真面目な顔で祖父が言う物だから、私は彼が酷く取り越し苦労をしていると思った。私は唯階段を上っているだけなのに、祖父は何をそう深刻に心配しているのだろう。そこで私は、「嫌だなお祖父ちゃん、私は元気だよ、具合は悪くない、階段を登っているだけだよ。」と言うと、彼は落ちただろうと言った。

 「お前階段から落ちただろう。」

そう、彼が私には腑に落ちない事を言うので、私はやだなぁと彼の真面目な様子を可笑しく感じた。お祖父ちゃんはまた冗談を言っているのだ、と私は思い、にこやかにはははと笑うと、「唯階段を登っていただけなのに、具合が悪くなるなんて、そんな事無いよ。」と言うと、私の声は妙に口の中にこもり、頭の中に反響する様に感じた。祖父の顔が更に眉を寄せるので、私は彼を安心させ様と、はははははと闊達に元気に笑った。私の頭の中にもう1人自分がいて笑っている様な感じだ。すると祖父は口を閉じた。

 絶句した彼の目は、私には普段より小さく見えた。小さな目をした儘で、祖父は私を見詰めた儘後退るようにして数歩階段を降りた。が、私が静かに見つめていると、彼は思い立ったという様な顔付をして頷き、私に対して軽く会釈をすると、数歩覚束な気に足を動かした。そうして緊張した足取りでそろそろとまた私の傍迄登って来た。この時の私は、祖父の会釈した顔付や雰囲気が、私の父のそれと似ているなぁと、そんな事をぼんやりと感じていた。