それからの祖父は、「家の物は皆何をしているんだろう?。」、そう不思議そうに呟いた。
主や内の子供がこんな状態になっているというのに、誰一人見にも来ないとは…、一体この家はどうなっているのだろう。そう静かだが不満げに呟いた。私は祖父を見上げていたが、お祖父ちゃんと言って声を掛けた。しかし、祖父の方は私の声に全然気付かない様子だった。
声が聞こえないのだろか?私は不思議に思ったが、その後も数回彼に対して声掛けしてみた。が、全く祖父は私の声が耳に入らない無い様子だった。私はじれったくなり、自分の体を動かしてみる事にした。すると、祖父がおやっというようなそぶりを見せた。
「お前、生きているのか!。」
そんな事を彼が言う物だから、私は手短にうんと答えた。こくりと微かに首も動かした。すると祖父は非常に驚いた顔付きをした。彼はえーっと、ビックリ仰天したと言ってもよい位の反応をした。そうして、バタバタと私の視界から彼の顔が消えると、私はゆらゆらどんどんとした振動を、自らの体に感じた。そこで地震かしらと思ったくらいだった。
私が自らの視界や体の感覚でよくよく自身の現在の状態を把握してみると、私は階段の中程よりやや上の階に近い場所に身を置いていた。先程祖父といた場所とは違う位置だ。あれっと、如何も腑に落ちない。祖父の態度もそうだが、自身の身の置き様も腑に落ちなかった。怪訝に思うばかりで、呆気に取られている私に、祖父は階下から話掛けて来た。
「おーい智ちゃん、生きているんだね。」
ああん、と、私は祖父は何を言っているのだろうと不思議がるばかりだった。すると、祖父は言葉を繰り返すので、云、そうだよと私は答えた。
「お祖父ちゃん、変な事ばかり言うんだね。」
如何したの?、何かあったのと私は尋ねた。すると私が見詰めている祖父はポカンとした感じでいたが、その内少々微笑んだ。頬など染めたりした。それから、うろうろと数回、行きつ戻りつ往復で歩き回っていたが、うんと覚悟を決めた様子で階段を上って来た。私の傍に来ると、祖父は
「智ちゃん良かった、」
良かった、良かった、そう言って笑顔で喜んだ。そうしてはははと笑い声等洩らすと彼は急に静かになり、しみじみとした感じで感涙にむせんだ。
ややあって、ああよかった、お前は実に運のよい子だな、あんなひどい落ち方をして助かるとは、と祖父はやや朗らかに言った。私は祖父が、一喜一憂、何を1人でこの様に歓喜しているのか全く分からなかった。目を細めた彼の顔を只々見詰めているばかりだった。
そうして、そうかと思い当たった。『如何も祖父は変なんだな。』、変な人なのだ!。こう思った。そこで、妙な物を見るような眼で自然祖父の顔を私は見詰めてしまう。何しろ、私にとっては訳の分らない事を、祖父はやはり私に言い続け過ぎた感が有ったのだ。この時の私には、訳が分からない、状況を把握できないという苛つきが確かに有った。無理にでも祖父を妙な人に決めつけて仕舞おう、そう決意した。
すると祖父も、この私のわざとらしい、妙な物を見るという視線に気付いた。当然祖父は私のこの素振りを察知して怒り出した。お前、私の事を変な人間だと思っているだろうと言うのである。勿論、そうだよと私は答えた。
「だって、お祖父ちゃん、さっきから変な事ばかり言ってるんだもの。」
それは当然だろうと、私は不満げに口幅ったい事を彼に言った。