Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 78

2020-11-24 14:29:27 | 日記
 私の母は急に項垂れてしょんぼりした。如何したというのだろうか、私は階下で起こっている出来事に如何にも合点が行かず、自分自身がこれからこの家族の状態にどの様に参加して行ってよいのかさっぱり分からなかった。
 
 『兎に角何か言おう。』、そう決意して、「お祖父ちゃん、お母さんを苛めちゃ駄目だよ。」と声を掛けた。すると向こうを向いていた祖父の肩が、ハッとした感じで上に上がった。そうして彼はこちらへと肩越しに顔を向けた。祖父の向こう側にいた母はというと、祖父の体の陰で頽れに掛かった。
 
 「姉さん、確り。」
 
祖父が彼の顔を戻し私の母の腕を取った。舅の陰になった場所からううぅ…と、嫁の嗚咽が漏れた。
 
「こんな時こそお前さんが確りしなければ、娘時代は過ぎたんだよ。お前さんはもう人の子の母親なんだからね。」
 
嫁から手を離し、確りと足を据えて彼女の傍に立った舅はきっぱりと言った。えぇ、えぇと頷く私の母の声が畳に近い場所から聞こえた。
 
「泣くのは後だ。さぁ、子供の傍へ行っておやり。」
 
そう祖父に言われた母が、ここで如何涙を堪えた物か、そう間を置く事無く彼女は私のいる階段へとしんみりと登って来た。
 
 彼女は沈んでいた。顔色が酷く悪い。土気色という物だ。私は母の顔色を見て彼女が病気なのかと危ぶんだほどだ。この時の彼女は物言いた気に私を眺めるばかり、彼女の口からは何も言葉が語られてこなかった。
 
 「お母さん、具合が悪いの?。」
 
そう私が訊くと、ぐ…っと彼女は喉を鳴らした。母は思わず私から顔を横に逸らし目を伏せた。と、彼女は彼女の背中を私に向けた。その儘母は暫く私に背中を見せていたが、
 
「姉さん、ここが正念場だ、確り!」
 
と、階下にいた彼女の舅の叱咤激励が飛ぶと、数回肩を震わせてええ、ええと頷いた。
 
 「智ちゃん、」
 
振り返った母は私の名を呼んだ。うん、なあにと直ぐに私は答えたが、母は一向にその先の要件らしい事を話し出さない。再び智ちゃんと母は言ったが、その後も彼女からは何も言葉が無く、彼女の顔は私の目の前で一文字に口を結んだ儘でいる。見詰める私の目に彼女の唇がフルフルっと震えた。
 
 さて、云と言う返事が良く無かったんだろうか?、私は考えた。そこで「はい、なぁに?。」と、母が何か言う前にと私は気を利かせた。ここで前以て彼女の呼びかけに合いの手を入れたのだ。これは母が以前私に対して、何かしら小言や躾に注意が向いた時に発した言葉、「云じゃなくて、返事ははい。」と命令口調で数回言った事を、この場で思い出して実行したまでに過ぎない。
 
 すると母は、私に先んじられた事で一寸嫌な顔をした。が、如何やらこの私の返答で彼女は私への話を口にする事に気が乗ったらしかった。
 
「お前って、本と、嫌な子だね。」
 
何時もの調子と顔付きで、そんな言葉を彼女は私に零した。

うの華3 77

2020-11-24 13:26:54 | 日記
 「智が死んだなんて、お義父さんの勘違いじゃないですか!。」
 
思い切って口にすると、ややぷんとした顔付きで舅から身を反らした嫁である。それに対して舅は少々怯んだ気配になった。が、廊下から如何やってこちら側が見えたものだろう、透かさず「お父さん、負けちゃダメ。」と、姑の小声ながら、夫に対する応援が確りと入った。
 
 これらの事に、何方へ如何という感じで私の祖父は躊躇していた。うろうろと行こうか戻ろうかと足をもたつかせている。と、
 
「一寸待っておくれ。」
 
これは私の母に彼が言った言葉だ。次に祖父は居間へと歩を進め、廊下の様子が見える位置にまで達すると、
 
「お前そこにいたのか、何をしている。」
 
そう廊下に向かって声を掛けた。後は彼の息子や妻への小言めいた言葉が続いた様子で、彼の不明瞭な声がぱらぱらとこちら迄聞こえていたが、
 
「今は子供の事より、孫の事の方を優先させなさい。」
 
そう妻や息子に言うと、
 
「いいね、家の者の緊急度を考えて行動するんだ。その者に合わせて動くんだよ。」
 
こう彼は廊下の妻子に言い捨てて、この家の嫁である私の母のいる場所迄足早に戻って来た。
 
 真剣な面差しで戻って来た祖父は、彼の顔付きだけで無く、次に口にする言葉にも差し迫った緊迫感を込めた。
 
「姉さん、騙されてはいけない!」
 
「これが手なんだ。これが魔が来る兆しなんだよ。」
 
「死が訪れて来る前触れの様な物なんだよ。」
 
これがね。そう祖父は段々と消えゆく様な声音になり、自分の興奮した感情を自ら抑える様な調子へと変わって行った。
 
 祖父は私の母に諭すように言っていたが、彼は物言う内にあれこれと考えを巡らせながら言っているという顔付に変わった。その内彼はうわ言の様な声音になったが、それはこの先の家での、それぞれの家人の役割やその行動の方策を練っていたからだった。
 
 そんな祖父は、直ぐに今後の母に対する言葉を発し出した。その時の彼はもう普段の声音に戻っていた。
 
「私は戦地で何度も見たがね、多分お前さんは初めてだろう、内地にいたんだから。お前さんの実家の方は平和だったからね。」
 
「あら、お義父さん、そんな事も無いですよ。」
 
と、母。あの時は何処も同じですよ、と、義理の父の言葉に彼女は取り成した。
 
 それに対して祖父は、「否、あんたのその様子では違うね。人のこういった魔という物が静かに忍び寄って来ている時の事を知らないようだ。」
 
と、自分の主張を通した。
 
    お前さんはね、頭を打ち付けた人のその後の経過という物を、殆ど知らない様子とみえた。この後に人の終焉が、別れが忍び寄って来るんだよ。頭をしたたかに打ち付けた人の最後という物は、後から時間を置いてゆるりとね、その人に訪れるものなんだよ。
 
 そんな怪奇じみた祖父の語り口に、思わず釣り込まれるように私の母は彼女の舅の側へと2歩3歩と歩み寄った。
 
    「では、ではお義父さん。」…、母は何やら口の中で呟いた。「そうだ、もう駄目なんだ、智はね。気の毒だが、あんたの最初の子はもうとっくに死んでいるんだよ。」舅は嫁にきっぱりとした口調で、きちんと引導という物を渡した。
 
 そんな祖父の凛とした姿に、ううむ、祖父はきりりとしているなと私は階上で感じ入っていた。そんな私は現状を全く理解していなかった。先程迄、祖父と私の2人だけだった時には、彼は可なりおろおろとして階段をうろうろと上がったり下ったり、右往左往していた只の平凡な人の祖父だったのだ。が、家の嫁である私の母の姿がこの空間に現れるやいなや、彼女のその存在に彼はしゃんとして男らしくなり、一家の主然としてその場を取り仕切る主人の姿へと変貌していた。彼はこの家の大旦那の風格を兼ね備える人物として、この場を取り仕切り、采配する立場という重責を担うべく、既に我が家の統率者になろうとしていた。

今日の思い出を振り返ってみる

2020-11-24 13:24:31 | 日記

うの華 101

 こんな古めかしい木のせいで怪我するところだった。「もう!」と私は床を掌でバシバシと打った。「痛!。」私は新しい痛みに声を上げた。床を打った掌を仰向けてみると、赤い血がにじ......

 穏やかなお天気になりました。でも、晩秋です。朝夕は寒くなりましたね。