私は彼女に手を振って、にこやかにここよと合図をすると、友人はひょっと一瞬驚いた雰囲気になりました。が、その後は半信半疑の体で、案外意外そうに私に近付いて来ました。そうこうする内に、彼女にも私の顔が判別できた様子でした。側に来た友人に、そうなのと、私の名前を言われたものです。
そうよ、如何したのと、私は普段の授業には眼鏡で臨む彼女に微笑みました。分からなかった?、そうよ。と、お互いに知らない子だと思っていた事を2人で話したのでした。その行き違いに彼女と共に可笑しくなり、無駄に余計な時間を過ごしたとハハハハハ…と、2人一頻り笑い合ったものでした。
私達はその後遊具に座り込み、何時もの様に話し始めました。私達の交友というと専らこのお喋りでした。その日も私はこの友人とのお喋りを楽しみに彼女を待っていたのでした。ニコニコして話し始めた私達でしたが、今日の彼女は何時もと一寸違っていました。
先程、彼女がグランドの向こう端にいた時にも私は感じたのですが、私が遊具の移動をした時に、彼女の私を見る視線に鋭い物を感じたのでした。敵対する様なきつい目付きです。針で刺す様なと形容する様な視線でした。今も私が笑って話す端々で、私に注ぐ彼女の視線にキツキツと、数回それは浮かんでは消えていました。「如何したの?、今日は何だか変よ。」気になった私は彼女に尋ねたくらいでした。何だか彼女の会話も何時もの様に弾まないのでした。
別にと答えていた彼女でしたが、その内私の服装の話になりました。彼女は何時もの地味目な服装と違うと指摘すると、私の方こそ如何かしたのかと聞いて来ました。そうだったと思います。そこで私はふふふと悪戯っぽく笑うと、私も女の子だから、それらしい服で纏めてみたの、と、冗談めかして笑うと、そこは可となく口に片手を添えたり、シナを作ったりして見せました。多分そうだったと思います。そこまでやっていた事でしょう。そこではハハァンと、彼女はこれが私のジョークだと察した様子でした。
可愛いシャツ。そうでしょう。赤い色の花が女の子らしいね。とか、そんな風にファッション談義する内に、値段や売っていたお店、購入時期、その時のお店での品数等、話します。続いて赤いスカートへと話が移ると、これが私の家庭科の課題という事に、彼女の方はあまり合点のいかない様子でした。そう思うと、やはりデニム地の色や、スカートの型に各々違いがあったのでしょう。
そうしておいて、不意に彼女は今日はこれでね、と言うと、彼女とこれからもっと話したいという私の気持ちを他所に、帰宅する為でしょう、さっさとグランドから去って行ってしまいました。今から思うと、やはり彼女も服を買いに走ったのでしょうか。
さて、半ば呆気に取られ、ポカンとした私は1人グランドに取り残されていました。これは土曜の午後か日曜日の話です。元々広い小学校のグランドには友人と私の2人しか居なかったのです。友人とのお喋りが中途で終わり、不満足な気分の儘の私はポツネンとして直ぐには動けないでいましたが、やがて帰ろうと、腰掛けていた遊具から立ち上がりました。
それにつけても、私は考えていました。今まで見たことの無い友人の鋭い目付きが気になりました。何だったのだろう?、私は何か彼女に対して嫌に思う様な事をしたのだろうか、と、私はその後何回か考え込んでいました。