Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

赤い服 15

2021-08-31 13:45:57 | 日記

 ここ何十年か、お盆の墓参りで他の檀家の方と関わりあう事等殆ど無い我が家です。因縁を付けられる事も無く来ていました。何だろうかと私は思いました。近付いて来るその人の、さり気ない顔を判別した私は、「あら、今日は。」、何ちゃんとその人の名を呼び挨拶しました。「珍しい、墓参りで出会うなんて。」と。向こうは吃驚した様子でしたが、直ぐにあら、何ちゃんだったのと私の名を挙げました。従姉妹同士ですもの、親戚です、ちゃん付けです。

 さて、従姉妹は驚いた様に普段と違う服装、化粧もでしょうね、私とは気付かなかった様子でしたが、如何したのかという様な事を尋ねて来ます。

「ああ、今年還暦なので、赤い服にしようと思ったんですが、」、と、赤は似合わないからオレンジでと、私はいけしゃあしゃあと答えてすれ違ったという様な出来事がありました。

 にこやかに挨拶して、互いにすれ違って歩き出してから、私も内心驚いていました。何方かというと何時もにこやかで愛想の良い従姉妹でした。私は彼女の、今迄嫌な顔さえ見た事がありません。この時の彼女の瞳、ギランとした敵意ある視線の光は、私は過去に見た事のある視線の光でした。そう、小学校で待ち合わせしていた友人の瞳から発せられていた物と同じギラつきでした。その時並んで歩いていた子供も、従姉妹が何だか妙な感じじゃなかったかと私に尋ねてきます。そうね、私は内心思いながら、まぁ、今日のお母さんはこの服だし、歳に合わない服装だからという様な事で、吃驚されたんでしょうと言葉を濁しておきました。

 お寺の駐車場に差し掛かると、子供も考えていたのでしょう。今日のお母さん、化粧が派手、目の上光ってるし、と言うので、これはラメよ、派手にしてみたの。派手過ぎたかもと、一応反省してみるのでした。

 さてさて、この様に、赤い服、それでなくても朱色という明るく派手やかな赤系統の色は、何かしら同性の女性が身につけると、我々女性の心情に波紋を投げかける物のようです。それは怖い光を含む心情であり、燃え上がるジェラシーの文字通りの赤、朱色の光の様でもあるようです。そして、私もその例外では無い事を私も確り知っています。それなので、赤い服を着る事を躊躇い、又迷うのでした。外で着る事無いかもしれませんね、この調子では。(終わり)


赤い服 14

2021-08-31 13:37:02 | 日記

 私の還暦の誕生日のこと、特別に赤い頭巾やちゃんちゃんこ、座布団等用意して祝うという事はしませんでした。それでもこの年は格別な思いがした物です。自分の人生の大きな区切りと感じ、過ぎ去った年月に格別な感情が湧いたと同時にその過去は希薄な物となり、この歳迄自分が来れたという現在、当時の自分という者がこの真新しい時点のスタート地点に立っているという様な、そんな感慨も一入に感じた物でした。

 私は春生まれなので、この年はこの様にフワフワと新鮮な感情の儘、うっとりとした軽い気分を身に纏った儘その儘にカレンダーが過ぎて行きました。そうして夏になり、お盆が近付いた頃の在る日です。その日も私は墓参り用にと、真新しい夏用の服を用意しようと複数のお店を物色しながら歩いていました。

 高齢に近付くに連れ、例年の私は墓所での風や虫などの難儀を避けキュロットやズボン等身に付けると、自然上下を分けた服装でお寺に参拝する事が多くなっていました。今年は如何しようかと考えながら、衣料品店を覗く内に、私はそうだ!と思い付きました。今年は女性らしくワンピースにしよう!と思ったのです。

 若い頃の私の、改まった席にはおニューのワンピースが定番、なので私の若かりし頃の墓参りの服装も、これまたおニューのワンピースが主流だった訳です。昔を今に、というのでも無いのですが、今年は還暦だし、赤い服で行こうと先ず思いました。赤いワンピースでと考えると、自然ふふっと口元から笑いが零れたりします。この時点、ちっとも恥ずかしい等と思っていないのです。

 しかし、探してみても、私が思う様に気に入る様な希望通りの服には出会えない物です。私はお盆に赤いワンピースを着る事を諦め始めました。ワンピースだけを残し、その線で探す事にしました。

 そんな時です、私は或るお店で、カジュアルなオレンジ系の格子柄のワンピースを見付けました。ふんふんと、私は試着室の鏡にその服を合わせた自分の姿を映してみます。いいんじゃないかな、という私の感想が返ってきます。続いて試着室に入り試着してみます。サイズはF、だけに中年メタボ体系の私でもゆとりが有りました。私のメガネに敵いにこやかに購入決定です。ふんふんと機嫌良く帰ってきました。

 さて、お盆当日です。私は臆面もなくオレンジ、朱色のボーダーに、紺と赤の細かい線が格子となったワンピースを着込み、多分夏用の涼しいスパッツを身に付け、折角若作りだからとメイクもそれなりの塗り込みを試みます。普段は入れないハイライトの上にラメ入りのアイシャドウ。オレンジのルージュの上にうる艶の上塗り。と、私は全く気にせず墓参りに臨み、今や何事も無く境内を後にしようとしていました。

 私達が釣鐘堂の横に差し掛かり、菩提寺の山門というような場所に掛かった時です。ふっと前方の視界に入った女の人らしい姿の、その瞳が妙にギラっと敵意に満ちた光を私に放った様で、私はハッとしました。