私はここで、赤、朱色に近い明るい赤い色のジーンズを選びました。当時の元々のブルージーンズが濃紺だった事から、その反動でかけ離れた色をと私は選択したのでした。私が女の子らしい色にと考えて選んだこの赤いジーンズは、私がこの店内の商品を見回して直ぐに気に入った物でした。母もそうね、いい色だわと、笑顔を私に向けると機嫌良く同意してくれたものでした。
私が赤い衣類を身につけるのは、大抵は気分の良い日でした。お天気が良く、少しは女の子らしく着飾ってみて、ルンルンと明るく外を歩いてこようか、そんな気持ちになる日でした。そこで私はこのジーンズを買ってもらった日からこれを穿き、既に数回ご近所を闊歩して来ていました。もちろんこれを穿いた時の私の気分は最高潮で、その明るい色味の気分の儘に、何時も朗らかに帰宅して来ていました。そう、ある出来事があるその日迄。
或る日、母方の叔母が私の家へやって来ました。叔母は母の末の妹に当たります。こちらへ来た目的は地方都市の大きな商店街で何かの買い物がしたいという理由であったと思います。母と私は叔母に誘われる儘に、共に連れ立って街まで出る事にしました。家を出て直ぐだったと思います。私の母は何か思い出したらしく、叔母と私に先に歩いていてくれと言うと急に家に引き返して行きました。何だろうと、私達は訝しがりながら何時もの商店街の大通りへ、家から向かう道を歩いて行きました。
商店の入り口に向かう、坂道の通りが有る広道迄の、家から丁度中間ぐらいの距離に当たる場所に差し掛かった時のことです。何を思ったのか、叔母が私からさささと数歩離れるとこちらを振り返って見ました。叔母はそんな素振りをまた数回繰り返して、ふふっと笑うとこう私に言った物です。
「ざっこい、そのズボン似合うと思って着てるの。」
と、こう言った言葉だったと思います。これは叔母が私にその赤いジーンズが似合わないと言っていたのです。『ざっこい』は、母の里の方言で、何かに付けてこの叔母はよくこの言葉を口にしていました。誰かの服装の評は勿論ですが、ざっこい犬、ざっこい色、ざっこい…、等々。意味は妙だとか、尋常じゃないと言う様な意味の様ですが、私の叔母の言いたい事は、『変だ』という意味の様でした。
行成です。何時も私には親身になってあれこれ構ってくれる叔母でした。叔母の顔が笑顔であっても、私は衝撃を受け吃驚しました。この場合のざっこいの言葉も、私には効果的面でした。この私の驚きは後味の悪い悍しい気分を私にもたらしました。今から商店に買い物に行くという私の楽しい気分は沈み込み始めました。
その後も叔母は、よくそんなズボンを履いて外を歩けるねとか、恥ずかしくて並んで歩けない等、叔母にすると私が姪という気安さからでしょう、顔は笑顔ですが、つけつけと私に対して小言の様に並べて言ってくるのです。この時の私達はまた並んで角を曲がる所でした。私もそれ迄は笑顔を浮かべ、時には苦笑いをしていたのですが、人間どんな拍子か、ムッとすると思わずプン!となる時がある物です。この時の私がそうでした。
「私帰る。」
私はそう叔母に言うと、叔母に母と叔母の2人で買い物に行くよう言い出し、自分は家に引き返す構えを見せました。当然叔母は慌てて私を引き止めたのですが、一旦こうと言い出した私も後に引けず、町角で2人であれこれと言い合っていました。その内に私の母が追い付いて来たので、気分を害した私は切りよくその儘ぷいと帰宅したのでした。
これは私にはショックでした。他人では無い親戚の叔母の言葉だっただけに、剥れた私はジーンズを箪笥に仕舞い込んで長らく穿かずにいました。しかし、その内またこれを取り出して見つめ直し、やっぱり女の子らしい可愛い色だからと、再び穿くようになったのですから、私も極々普通の女の子をしていたものです。