碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

ウッディ・アレン監督「ミッドナイト・イン・パリ」を堪能

2012年06月04日 | 映画・ビデオ・映像

待ち遠しかったウッディ・アレン監督の新作「ミッドナイト・イン・パリ」を観てきた。

ギル(オーウェン・ウィルソン)は婚約者(レイチェル・マクアダムス)と共に、彼女の両親の出張に便乗してパリを訪れる。彼はハリウッドで売れっ子脚本家として成功していたが、作家への夢も捨て切れずにいた。ロマンチストのギルは、あこがれの作家ヘミングウェイや画家のピカソらが暮らした1920年代の黄金期のパリに郷愁を抱いており・・・・。

そう、この作品のキモは、主人公が迷い込む“1920年代のパリ”と、そこで出会う“キラ星のごとき芸術家たち”にある。

何しろメンバーがすごい。

フィッツジェラルドとゼルダ、ヘミングウェイ、ピカソ、ダリ、そしてコールポーターだっているのだ。

ギルが、次々と登場する彼らと遭遇するシーン。

ギルの感激は、そのままウッディ・アレンの感激、いや願望、夢なのだ。

「ああ、いつかこれを実現したかったんだろうなあ」と思いながら見ていたら、泣きそうになった(笑)。

誰にも、それぞれが憧れる、行ってみたい「黄金時代」がある。

その黄金時代と思われる時代にいる人もまた、自らの黄金時代に憧れていたりするのだ。

面白いなあ。




それにしても、ウッディ・アレン監督が撮ったパリの、まるで(ウッディ・アレン監督が撮る)ニューヨークのような美しさは、どうだ。

特に雨の夜のシーンなんて、うっとりするほど。

冒頭、FIX(固定)撮影によるパリの実景が、正確に2秒ずつ積み重ねられていくだけで、もう<ウッディ・アレン・ワールド>へとスリップしていく。

快感。

ライト感覚の幻想的ラブコメディーでありながら、さらりと人間の奥深いところを描いているあたりは、やはりウッディ・アレンだ。

アカデミー賞「脚本賞」も納得です。

ウッディ・アレンがもう少し若い頃ならば、きっと自分で演じていたであろう(だってまんまウッディ・アレン自身だもん)ギル。

これに抜擢されたオーウェン・ウィルソンの飄々とした演技がまた良い。

「恋とニュースのつくり方」のレイチェル・マクアダムスの婚約者もハマっている。

さらに、「インセプション」や「コンテイジョン」のマリオン・コティヤールや、「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」の暗殺者だったレア・セドウーといった女優陣も実にチャーミング。

この辺りは、もう<ウッディ・アレン・マジック>ですね(笑)。


というわけで、「いやぁ、映画って本当にいいもんですね~(by水野晴郎さん)」の気分で、劇場を後にしました。

ようやく、ここ最近観た映画の“連続ガッカリ”を消すことが出来たし、
よかった、よかった(笑)。




今週の「読んで(書評を)書いた本」2012.06.04

2012年06月04日 | 書評した本たち

やるなあ、「PEN」。

今度は、「完全保存版 ルパン三世 全解明。」だ。



40年の歴史を俯瞰した上で、「同時代ヒーロー」としてきっちりショーアップしている。

峰不二子の名を呼ぶ、山田康雄さんの声が聞こえてきそうです(笑)。




さて、今週の「読んで(書評を)書いた本」は、以下の通りです。
 
佐々木俊尚 
『「当事者」の時代』 光文社新書

円満字二郎 
『漢字ときあかし辞典』 研究社

宮沢章夫 
『素晴らしきテクの世界』 筑摩書房

山崎 努 
『柔らかな犀の角』 文藝春秋

・・・・佐々木さんの『「当事者」の時代』は、新書とはいえ分厚い一冊ですが、自伝的・体験的要素が濃厚で、話が具体的。

一気に読めます。


* 上記の本の書評は、
  発売中の『週刊新潮』(6月7日号)
  に掲載されています。


NHK「きみは確かに、そこにいた。~歯科医師たちの身元確認~」のこと

2012年06月04日 | テレビ・ラジオ・メディア

このブログでもお知らせした、NHK「きみは確かに、そこにいた。~歯科医師たちの身元確認~」を見ました。

被災地で犠牲者の身元確認に携わる歯科医師たち。

そういう活動が行われていることは知りながら、初めてその様子を見せてもらった。

大変な取り組みだ。

たった1本の歯が、その人の「存在」を証明する。

そのことの重さ。

そして何より、ご遺族の方々の思いと対峙する辛さ。

よくやってくださっていると、頭が下がった。

また、そんな医師たちを変にヒーロー扱いするのではなく、抑制されたタッチで映像を積み重ねていく番組の作りも良かった。

震災を追い続けるドキュメンタリーとして、静かな佳作と言えます。