碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【旧書回想】  2021年3月前期の書評から 

2022年11月26日 | 書評した本たち

夕子さんとペコちゃんの関係は?

 

 

【旧書回想】

「週刊新潮」に寄稿した

20213月前期の書評から

 

辻田真佐憲、西田亮介『新プロパガンダ論』

ゲンロン 1980円

『空気の検閲』の辻田。『メディアと自民党』の西田。気鋭の論者が現代のプロパガンダ(政治広報、情報戦略)を語り合った。人々が気づかぬ間に思想を浸透させていくのがプロパガンダの王道だ。それは極めて「政治的」かつ「組織的」に行われる。政治と情報が複雑に交錯する時代。プロパガンダの実相に迫る本書は、市民が極端に流れず、感情に踊らされずに物事を判断するための指南書となる。(2021.01.25発行)

 

魚住 昭『出版と権力 講談社と野間家の一一〇年』

講談社 3850円

明治の終わりに青春時代を過ごした男たちが、やがて新聞・出版界の主役となっていく。正力松太郎、岩波茂雄、そして野間清治などだ。著者は清治と省一、野間家の2人を軸に講談社の歴史を掘り起こす。特に、一企業を営利事業と教育を融合させた「修養主義雑誌王国」に仕立て上げる清治の野心と力業が際立つ。戦時中、講談社が行ったのは「戦争協力」か、それとも「国策協力」だったのか。(2021.02.15発行)

 

真山 仁『それでも、陽は昇る』

祥伝社 1650円

東日本大震災から10年。『そして、星の輝く夜がくる』『海は見えるか』に続く震災三部作の完結編だ。主人公は阪神・淡路大震災で妻子を失った小野寺徹平。東日本大震災が起きると、東北の小学校に応援教師として赴任した。2年後、神戸に戻って震災体験を語り継ぐ活動に参加する。復興の主役は若い世代と考え、大人に何ができるかを模索する小野寺たちを、予期しなかったコロナ禍が襲う。(2021.02.20発行)

 

イ・ドンジン:著、関谷敦子:訳

「ポン・ジュノ映画術 『ほえる犬は噛まない』から『パラサイト 半地下の家族』まで」

河出書房新社 3190円

今や世界的巨匠となった、ポン・ジュノ監督の作品を徹底分析する一冊だ。映画評論家である著者によれば、作品全体の特色は「ジャンルを借用して始まり、そのジャンルを裏切って終わる」ことにある。また物語や人物像がひっくり返る瞬間としての「変曲点」を持つ。映画『パラサイト 半地下の家族』をはじめとする評論と監督へのインタビューが、合わせ鏡となる仕掛けもファンには堪らない。(2021.01.30発行)

 

小川隆夫『ジャズ超名盤研究3』

シンコーミュージック・エンタテイメント 2860円

ジャズの名盤を解説するシリーズの最終巻。マイルス『クールの誕生』、コルトレーン『ブルー・トレイン』など33枚が並ぶ。何より不動の構成が見事だ。作品概要、演奏メンバー紹介、全曲の詳細、さらに関連アルバムのページも充実している。3冊合わせての100枚は堂々のジャズ事典だ。閲覧すればモダンジャズ、特にビバップ以降の重要なジャズシーンを把握できる。もちろん自分の超名盤も。(2021.02.18発行)

 

爪切男『もはや僕は人間じゃない』

中央公論新社 1210円

小説『死にたい夜にかぎって』で知られる著者のエッセイ集だが、新作の私小説のような吸引力がある。DV系の父親から逃げるように上京して就職。だが、結婚まで考えた恋人にフラれ、仲良くなったのはオカマの「トリケラさん」とパチンコ中毒の「住職」だった。朝はお寺に生き、夜はオカマバーに通う、バチ当たりで素敵な日々が語られる。書名の「人間じゃない」の意味は読んでのお楽しみ。(2021.02.25発行)