実相寺監督が描いた書画
2006年11月29日、
実相寺昭雄監督 没。
享年69。
合掌。
異色の医療ドラマ登場
この秋、複数の「医療ドラマ」が登場した。共通するのは、「私、失敗しないので」などと豪語するようなスーパードクターがいないことだ。
中でも異色作と呼べるのが、岡田将生主演「ザ・トラベルナース」(テレビ朝日系)である。
トラベルナースとは、有期契約で仕事をするフリーランスの看護師。主人公の那須田歩(岡田)もシカゴの病院から日本の病院へと異動してきた。
このドラマを際立たせているのは、那須田と同時に赴任してきたベテランのトラベルナース、九鬼静(中井貴一)の存在だろう。
アメリカでは高度な資格を持つ看護師による医療行為が可能だ。那須田は日本ではそれができないことにイラ立つ。加えて看護師を見下す医者の態度も許せない。
だが、九鬼は「医者に盾つくのはバカナース」と笑い飛ばし、看護師の立場を踏まえながらも、巧みな言動で医者たちを自在に操っていく。
また「ナースは尊敬されない」「医者の指示がなければ何もできない」と不満をもらした同僚の女性看護師たちを優しく諭す。
「医者は病気しか治せませんが、ナースは人に寄り添い、人を治すことができます」。この〈第2の主人公〉が物語に奥行きを与えている。
たとえば第3話に登場した患者(村杉蝉之介)は、女性看護師に対するセクハラ・パワハラ三昧だった。さらに隠れて酒を飲んで転倒し骨折すると、病院の責任だと主張した。
九鬼は、この患者の行いを音声や映像で記録する。それを突き付けられて怒る相手に、こう言った。「あなたの腐った性根を治して差し上げたいだけです」と。
優しさと厳しさ。不動の信念とそれを支える確かな看護力。九鬼は患者を、医者を、そして那須田たち看護師をも少しずつ変えていく。
この「おじさんナース」、一体何者かと思っていたら、トラベルナースを世界各地に派遣する財団の理事長だと判明して……。
主演の岡田の健闘と同時に、中井の硬軟織り交ぜた演技が光る。シリアスとコミカルのバランスが絶妙なのだ。
そして脚本の中園ミホと制作陣は「ドクターX」のチーム。異色の医療ドラマは、新たなシリーズを形成しそうな1本となっている。
(しんぶん赤旗「波動」2022.11.28掲載分)