2024年09月13日
北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二
[#93 洋上風力発電と漁業 海外の経験 米国 MA沖ブレード破壊 漁業者の怒りとコスト高騰が洋上風力発電を遅らせる]
“The New York Times” “新しいクリーン・エネルギー事業が漁業にもたらす危険性に関する最悪の懸念を裏付けた” “リセットの必要がある”
日本での先行する欧米の洋上風力発電の漁業分野との共栄、相乗効果等の成功体験は、ほとんどが開発事業者による切り抜き発信で、実際に漁業分野の情報にアクセスしていくと様々な問題が報告されている。
世界中の漁業者は共通に、洋上風力発電プロジェクトについて、自らが知らない間に選定地が決まって唐突に説明会が始まり、漁業当局に十分なヒアリングを行うことなく、他の部局が主導する地方自治体の前傾姿勢による拙速な取り組みが行われ、事業開発者から漁業分野の科学的知見を理解しようとしない姿勢を感じていると指摘している。
一方、新型コロナウイルスのパンデミックを発端とするサプライチェーンの混乱は、ウクライナ紛争で一段と深刻化しており、輸送コストや原材料費の高騰、金利の上昇、そして、インフレにより、風力発電事業者の利益が圧迫され、内容が悪化しており、このような環境で、漁業分野を含め満足な補償等に対応がなされるのか、はなはだ疑問な状況が伝えられている。
2024年7月13日、マサチューセッツ州沖の“ヴィンヤード・ウインド”(Vineyard Wind)社による洋上風力発電開発プロジェクトのタービンが破壊、その後、ブレードの残骸がナンタケット島に打ち寄せられ、危険でありビーチが閉鎖される等の事態が発生、米国安全環境執行局(BSEE)は、風力発電所の建設と操業を一時停止する命令を発出する事件が起きた。
このプロジェクトのブレードはグラスファイバー製で残骸とともにガラス繊維が漂着、住民説明会において人体への被害、周辺海域の海洋汚染、魚の食物連鎖を危惧する指摘、意見等が噴出した。
2024年9月12日付“The New York Times”紙(WEB)は、”漁業者の怒りとコスト高騰が洋上風力を遅らせる“と題し、当該事件が引き金となり、マサチューセッツ州とイングランド沿岸沖合でのプロジェクトが遅延しており気候変動に対する目標を脅かす可能性があると伝え、“新しいクリーン・エネルギー事業が漁業にもたらす危険性に関する最悪の懸念を裏付けた”とした上で、“リセットの必要がある”とのアナリストの意見を紹介した。
グラスファイバーやその他の原材料の破片が潮の流れとともに漂流し、ナンタケット島海岸は閉鎖を余儀なくされ、漁業者は漁船に及ぼす脅威、特に破片を避けるのが難しい夜間航行に懸念を抱いている。
長さ300フィートを超えるブレードの破壊は40億ドルのプロジェクトに現在も影響を与えている。
開発者事業者はこの今夏に建設を完了させ、初の大型プロジェクトとなることを期待していた。
しかし、その目標には予想よりも長い時間がかかることになると見られている。
米国での洋上風力発電事業は、コスト超過、許可発行の遅れ、地元住民や漁業団体の反対のため、軌道に乗っていない。
マサチューセッツ州のブレード破壊事件の前から、コストが急上昇し、開発事業者がサプライチェーンの問題や金利の上昇を予想していなかったために、いくつかの大規模プロジェクトが中止または延期されている。
アナリストらは、こうした事象のリスクと、これに続くと予想される洋上風力発電プロジェクトへの厳しい監視により、他の再生可能エネルギーと比較してすでに高額な洋上風力発電のコストは、更に上昇するだろうと指摘している。
これらのコストは、電気料金として住民と、風力やその他の再生可能エネルギープロジェクトに補助金を提供する連邦政府と州政府が負担することになる。
シティー・グループのアナリストは「これらの洋上風力発電プロジェクトについての考え方や、プロジェクトに内在するリスクについて、リセットする必要があると思う」と述べた。
洋上風力発電において、先行する英国の再生可能エネルギー財団“Renewable Energy Foundation”は2020年11月、レポート“風力発電の経済-レトリック(美辞麗句)と現実”を発表している。
この中で、洋上風力発電プロジェクトのコストの予測は、押しなべて規模の拡大と経験効果によって、設置容量の増加にともない平均コストが低下すると説明されているが、現実には、容量が増加するたびに発電コストは上昇しており、その重要な要因の一つに、予想以上に早期に多発する故障にあると指摘している。