2024年06月16日
北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二
[#83 洋上風力発電と漁業 海外の経験米国 トランプは洋上風力を軽蔑している 鳥とクジラを殺す]
日本での先行する欧米の洋上風力発電の漁業分野との共栄、相乗効果等の成功体験は、ほとんどが開発事業者による切り抜き発信で、実際に漁業分野の情報にアクセスしていくと様々な問題が報告されている。
世界中の漁業者は共通に、洋上風力発電プロジェクトについて、自らが知らない間に選定地が決まって唐突に説明会が始まり、漁業当局に十分なヒアリングを行うことなく、他の部局が主導する地方自治体の前傾姿勢による拙速な取り組みが行われ、事業開発者から漁業分野の科学的知見を理解しようとしない姿勢を感じていると指摘している。
一方、新型コロナウイルスのパンデミックを発端とするサプライチェーンの混乱は、ウクライナ紛争で一段と深刻化しており、輸送コストや原材料費の高騰、金利の上昇、そして、インフレにより、風力発電事業者の利益が圧迫され、内容が悪化しており、このような環境で、漁業分野を含め満足な補償等に対応がなされるのか、はなはだ疑問な状況が伝えられている。
2024年5月11日、米国大統領候補ドナルド・トランプはニュージャージー州での選挙集会において、洋上風力発電を現大統領ジョー・バイデンによる“グリーン詐欺”(green scam)と批判、当選の暁には、公務開始初日に停止させるための大統領令を発令すると述べている。
再生可能エネルギー(以下 再エネ)開発業者と、彼らに資金を提供する銀行家たちは、来年2025年、ワシントンで政権交代が起こったとしても、再エネ施設の建設が完全に終わることはないと確信しているが、洋上風力発電に関しては別だ。
トランプはあらゆる形態の風力エネルギーを軽蔑している。
トランプは、すべての風力タービンが鳥を殺すばかりでなく、洋上風力は特に危険で、クジラと不動産価値(低周波被害に加え景観の悪化から)の両方を犠牲にすると主張している。
潜在的な大統領令の範囲と法的強制力は依然として不明だが、風力産業、環境活動家、アナリストらはいずれも、これを実行するだろう多くの理由を発見している。
前大統領トランプの就任1期目や選挙運動での発言から、彼が洋上風力発電にかなり敵対的であることは明らかだと言って間違いない。
トランプ政権は、洋上風力発電に対して二極化した姿勢を示した。
時には開発業者へのリースを自慢するプレスリリースを発表し、時には主要プロジェクトの認可を長引かせた。
2018年12月、内務省が約200万エーカーの海域を洋上風力発電開発業者に約5億ドルでリースしたとき、内務省は“入札大成功”を自慢するプレスリリースを発表していた。
しかし、翌2019年、内務省は当時国内で最も進んでいた風力発電プロジェクトであるヴィンヤード・ウィンドの審査を延期、多くの支持者はこの動きを中止に等しいと解釈した。
ヴィンヤード・ウィンドの開発者は最終的に許可申請を取り下げ、バイデン新政権下で再申請、プロジェクトは今年2024年初めにニューイングランド沖で発電を開始した。
シーザー・ロドニー研究所エネルギー・環境政策センター所長デイビッド・スティーブンソンは、トランプが勝利すれば、公約を実行するだろうと予測、「就任初日にまず大統領令が出るだろう」と語り、その命令はほぼ確実に新たな承認を差し止めるだろうと言及、新規リース入札の中止、洋上風力発電を担当する内務省海洋エネルギー管理局(BOEM)へ資金と人員をショートさせるか、あるいは単に許可を拒否する可能性があると加えた。