内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

『イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑』― 遠ざかる懐かしき昭和

2021-04-13 15:30:44 | 読游摘録

 本書の初版が刊行されたのは二〇一六年四月。それから五年経って、今年の二月に角川ソフィア文庫の一冊として第二版が出た。初版に加筆訂正を加えたと巻末にある。
 あまり感情移入せず、正確さを心がけつつ淡々とした筆致で一一四種の仕事が記述されていく。各項に付されたイラストも味わい深い。
 本書に取り上げられている「昭和の仕事」とは以下のような仕事である。「主に昭和の時代に見られた庶民の仕事で、現在は消えてしまったもの。仕事によっては、人力車などのように、昭和初期にはすでに姿を消してしまったものも含む。もうひとつは消えつつある仕事で、現在でも細々と続いているものの、最盛期が昭和の時代にあったものである。また、生業としては消えてしまったが、地域のイベントなどで行われている紙芝居屋など」も含まれる。要するに、「昭和を象徴するか、昭和に消えた仕事、昭和に全盛期を迎えた仕事などすべてひっくるめて」「昭和の仕事」と呼ばれている。
 取り上げられた仕事は、現行の「日本標準産業分類」(平成二十五年十月改定)を基準にして、「運輸」「建設業・金融」「情報通信」「製造・小売り」「飲食店」「サービス・その他」という項目ごとに分けられている。各項目内の仕事の配列は仕事名のあいうえお順になっている。
 図鑑形式だから、どこからでも興味のおもむくままにページを繰って楽しむことができる。目次を眺めていると、私にも懐かしい思い出がある仕事もあれば、よくは知らない、あるいはほとんど「未知」の仕事もある。どれもそれぞれに楽しそう。引用しだすとキリがなくなるので、一つだけ紹介しよう。
 「街角メッセンジャー」 なんか今でも映画かドラマのタイトルに使えそうな名だが、「公衆電話が普及していない時代に、手紙やメッセージを届けていた。駅前で小荷物を預かり運搬するなど、便利屋のような仕事も請け負った」と説明にある。「昭和二十年代の前半、新橋駅前に「よろず承り屋」が誕生した。まだ家庭に電話が普及しておらず、公衆電話もほとんどなかったこの時代に、急用で何とかして相手に伝言をとどけたいとき、承り屋で手紙などの伝言を渡すと、承り屋が自転車に乗って相手方に届けてくれた。これを街角メッセンジャーとも呼んだ。この種の仕事は地方や山村でとくに多く見られるようになった。」
「新橋の「よろず承り屋」には古物の賃借り自転車が一台、机が一台置かれ、便箋と封筒も用意されていた。この事業を始めたのは、満州引揚者の一人だった。昭和二十年代当時、少ない公衆電話には人が殺到し、しかも回線がよくなかったので、なかなか相手にも通じない。自ら電車に乗って相手の所に行こうとしても、混雑して乗れない。そんな時代のニーズをいち早く読み、電話代わり、電車代わりのサービスとして始めたのだった。」
 どうです。面白いでしょう。他の仕事も読んでみたくなるでしょう。あとはご自分でご購入になってお読みください。