新幹線の停車駅となり、品川駅の港南口は大きく変貌した。
以前、当欄で港南口がどれほど辺鄙だったかを書いた。漫画「AKIRA」のネオ東京と旧市街。それが混在するのが、この品川駅港南口である。
場を巡って、品川駅は山の手の高輪口と港南口が好対照をなす結果となったというのは有名な話しである。それが今はもう嘘のようにメトロポリタンと化した。
だが、その寂れた街は今もあちこちに見ることができる。
驚くことに古き良きスタイルのままの角打ちも見つけることができるのだ。
大平屋酒店である。
平然としたそのたたずまいは風景に溶け込んでいる。緑色の店舗シートにハイネケンのロゴ。未だかつてそんな店舗シートなど見たこともない。
恐らく、ハイカラな店舗だったのだろう。
角打ちはどの店も入りにくい。だって、常連しかいないことは火を見るよりも明らかだからだ。
16時を過ぎて、まだ店には人がいないだろうと思いきや、すでに3人の人がもう、店内で立って飲んでいた。
ボクも含め、どんな輩なんだよ!と言いたくなってくる。
ドアを開けると沈黙。
あぁ、やっぱりそうか。ボクはお邪魔虫なんだな。
と考えながら、瞬時に店を見渡す。
角打ちは大変なのだ。一瞬のうちに店の状況を把握しなければならない。通常の店ならば、ポジションに着いてから、ああだこうだとメニューを繰ればいい。だが、メニュー表が基本的にない、角打ちはポジションに着くまでにある程度を把握する必要がある。
例えば、生ビールの有無、手作りの酒肴の有無、その他面白い趣向。
角打ちはいろんなビールを飲めるのが楽しい。でも、生ビールも楽しみのひとつだ。だって、酒屋が注ぐビールがまずいわけがない。そして、手作りの酒肴。浜松町の丸辰有澤商店の「湯豆腐」のおいしかったことといったら。角打ちの酒肴は酒飲みだからこそ作れるアテばかりである。
そういえば、ここ品川も角打ち天国だ。前週に行った「栄屋酒店」があり、とても新幹線が止まる駅とは思えない。新橋、浜松町、田町、そして品川へと続く、山手線角打ちベルト地帯。
さて、大平屋酒店。店内を見渡したが、生ビールも手作りのアテもなさそう。そこで、おもむろにボクは冷蔵庫へと向かう。これは角打ちの基本プレーだ。冷蔵庫に行くまで時間を稼ぎ、そこで更に次の行動をうかがう。
冷蔵庫の中は見慣れたビールばかりだった。
輸入ビールもなければ、クラフトビールもない。ナショナルブランドのそればかりだった。
仕方ない。ボクは「一番搾り」を選び、レジへ。レジにはいくつかの渇きものと、スナックが置いてあった。
その中から「柿ピー」をチョイスした。しめて310円。
レジのカウンターに陣取る3人の先輩の中には入っていけず、店の入口近くのテーブルでぼんやりと一人酒。店の周囲を見ながら、その3人の飲兵衛の話しに聞き入る。
まったくもってくだらない話しだった。
恐らく、酒飲みらは、誰もがいつもくだらない話しをしているんだろうなって思う。
店の壁には古いポスターがずらり。そのうちのひとつにジェノバ時代のカズの姿があった。キングカズ。
若い。
さて、せっかくだからワンカップでも飲むか。アテは竹輪で。
それにしても味気ない角打ち。飲んでいても、ちっとも面白くない。できるなら、早くここを出たい。そんな一心である。
ただ、立ち飲みを制覇するだけの苦行。一人だけの角打ちはとても寂しいものである。
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