労働基準法は、業務上災害が発生した場合、それが労働者の重過失による場合を除き、会社に、被災労働者(またはその遺族)に対する一定の補償義務を課している。ただし、労災保険による給付が行われる場合は、その部分について会社は補償義務を免れることになっている(労働基準法第84条第1項)ため、通常は、会社は労災保険から給付されない待期3日間の休業分だけを補償すれば、労働基準法による補償義務は果たしたことになる。
ところが、民事上の補償責任は、労災給付が受けられたことをもって免れるわけではないので、その点は誤解の無いようにしておきたい。
その事故の原因が、業務命令自体に違法性が有ったためであるなら「不法行為」として、また、会社が安全配慮義務(労働者が安全に仕事できるよう配慮すべき会社の義務=労働契約法第5条)を果たさなかったためであるなら「債務不履行」として、民事訴訟が提起される可能性もあるのだ。特に後者に関しては、「事故が起きることが予見できたにもかかわらず、回避手段を講じなかった」という“不作為”について会社の責任が問われるため、すべての業務上災害が訴訟の対象となりうると言っても過言ではない。
そして、裁判所は往々にして弱者(=労働者)に有利な判決を出しがちであり、特に死亡事故においては会社の存亡に関わるほど多額の補償を命じられる可能性もあることは承知しておかなければならないだろう。
そういう事態に備えて、労災保険とは別に「使用者賠償責任保険」(民間保険会社の商品)を掛けておくことを検討する余地がありそうだ。
もっとも、業務上災害が発生すると、被災労働者やその家族(または遺族)はもとより、会社にとっても大事な労働力を失ったうえに損害賠償までしなければならないわけで、誰も得をしない。訴訟対策以前に、事故を予見して回避手段を講じておくことこそ、健全な経営のために必要であることを、経営者は認識しておくべきだろう。
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