部下が不祥事を起こした場合に、その上司も懲戒処分を科されるという例をよく見聞きする。
当該上司にしてみれば、自分が不祥事の当事者でもないのに懲戒を受けてしまうことに不満を抱くかも知れない。こういう懲戒は法的に問題ないのだろうか。
そもそも会社は、企業秩序を維持するため従業員に対して懲戒処分を科すことができるとされている。しかし、そのためには、会社は、予め懲戒の対象となる事由を就業規則等に定め、従業員に周知しておく必要がある。
とすれば、就業規則等に「部下が懲戒処分を受けたときはその上司も懲戒することがある」との明文規定が無ければならないかと思いきや、そういうことでもない。
部下の監督や指導を行う立場の者がそれを怠ったために不祥事が起きたのだとしたら、それを理由に、例えば「故意または過失により会社に損害を与えたとき」というような条項を適用して懲戒処分を科すことが可能だ。
部下が横領を働いていたのを見逃した上司を「重大な過失により会社に損害を与えた」という理由で懲戒解雇した事件(大阪地判H10.3.23)でも、裁判所は会社側の言い分を認めている。
つまり、部下の不祥事により上司が懲戒処分を受けるのは、「部下の不始末は上司の責任」という“精神論的スローガン”でも、「部下に代わって処分を受ける」という“美談”でもなく、「部下を監督・指導する」という上司自身の職務を全うしなかったことが懲戒の対象になると考えるべきだ。
したがって、上司の懲戒処分は不祥事を起こした当人のそれよりも、軽くなる場合も重くなる場合もありうる。「ミスした部下はお咎めなしだが上司は始末書を提出せよ」というのも何らおかしなことではない。ただ、行為と処分との均衡を図らなければならないのは、すべての懲戒処分に共通して言えることではあるが。
一方で、プライベートな飲酒運転や通勤途上での痴漢行為など、上司の監督や指導が及ばない場面での不祥事についてまで、その上司に責任を負わせるのは酷と言えるだろう。
また、充分な指導や注意をしていたにもかかわらず、部下が言うことを聞かずに事故を起こしてしまったのであれば、やはり上司の責任はゼロとはいかなくても軽減されて然るべきだ。
経営者としては、懲戒の目的が「企業秩序の維持」にあることを忘れてはならず、「懲戒のための懲戒」に陥ることのないよう、心がけたい。
※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
(クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
↓