令和2年10月に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、過去3年間に従業員から「顧客等からの著しい迷惑行為」に関する相談を受けたとする企業が19.5%に上っている。
昨年12月に起きた大阪市北区の医療ビル放火事件や今年1月に起きた埼玉県ふじみ野市の訪問診療医射殺事件のようなものは極端な例としても、従業員が身の危険を感じるような悪質クレームも、数字以上に多く発生している印象だ。
さて、こうした「カスタマーハラスメント」は、加害者は社外の者であるのは明らかだが、これへの対処を一つ間違えると、被害を受けた従業員の矛先が会社へ向いてしまうこともある。 「訪問した児童宅で飼い犬に噛まれて負傷した教諭がその損害賠償に関し児童の家族から土下座での謝罪を求められ、同席していた校長がそれを強要した」として被告の山梨県に損害賠償を命じた裁判例(甲府地判H30.11.13)は、直接的には「パワーハラスメント」が争点であったが、発端はカスタマーハラスメントであった。
他方、「自動車損害保険契約に関し保険会社に多数回・長時間の電話交渉を繰り返した顧客の行為」を業務妨害として架電差し止め請求を認めた仮処分(東京高決H20.7.1)などは、会社が悪質クレーマーに対し適切に対処できた好事例と言えよう。
そもそも、会社は、従業員が生命や身体の安全を確保しつつ働けるよう配慮しなければならない(安全配慮義務;労働契約法第5条)。 したがって、カスタマーハラスメントの存在を知った以上、会社は従業員を守るための対処を講じなければならないのだ。
誤解の無いように念を押しておくが、顧客(または利用者・取引先等)からの正当なクレームは、自社の商品・サービスの品質改善にもつながるもので、これには真摯に向き合うべきである。 しかし、それが「要求内容に妥当性の無いもの」や「要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当でないもの」であったら、それはカスタマーハラスメントに他ならず、従業員の就労環境を害し、ひいては会社の経営に悪影響を及ぼすので、経営者として毅然と対処しなければならない。
カスタマーハラスメントへの対処に関しては、先ごろ厚生労働省が公開した『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』も参考にしたい。
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