ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

昇格したために却って給料が減ってしまうのは許されるか

2017-03-03 12:09:13 | 労務情報

 この時期、従業員の昇降格を予定している会社は多いが、まれに、昇格したために却って賃金が下がってしまうケースが起こりうる。
 この現象は「昇格減給」と呼ばれ(※)、一般社員が管理監督職に昇格したことにより残業代が支払われなくなるために従来より給料が減ってしまうというのが典型例だ。
 ある意味、“制度設計上の不具合”とも言えるが、こういうことは法的に許されるのだろうか。
 ※用語的には、こういった賃金額の低下は、制裁としての「減給」と区別して「降給」と呼ぶべきだが、一般的に「昇格“減給”」と言い慣わされているので本稿でもそれに倣うこととする。

 基本的に、会社は、合理的な理由に基づいて社員を昇格させたり降格させたりすることができる。これは、人事権(会社が有する「経営権」に属する権限の一つ)の行使として、就業規則等に記載されていなくても(明文化しておくのが望ましいには違いないが)認められるところである。
 そして、昇降格とはすなわち職務の内容や責任の程度が変わることなのだから、それに連動して給料が多くなったり少なくなったりすることもあるし、それが労働契約(適正に制定された就業規則を含む)に則ったものであるならば裁判所も是認しているところだ。ちなみに、労働基準法第91条で「減給は10%を超えてはならない」旨を定めているが、これは制裁としての「減給」について制限を設けたものであって、このケースにこの論を持ち出すのは適切でない。

 結論として、「昇格減給は適法」ということになるが、そもそも、労働基準法に言う「管理監督者」に該当しなければ残業代を支払わなければならない(原則)ということには注意を要する。労働基準法第41条第2号の「管理監督者」は、経営者と一体的な立場にあり、賃金面でもその地位に相応しい待遇がなされていることが要件となっているところ、残業代が無くなったことで逆転してしまう程の賃金で「管理監督者」に相応しい待遇と呼べるのか、はなはだ疑問ではある。
 また、法的には問題が無いとしても、月々の収入が減少するのは社員の生活に直接影響する話なので、運用面での配慮は必要だろう。昇格に伴う基本給や役職手当の昇給額が残業代を上回るように制度設計しなおせればベストなのだが、それが難しければ、当分の間「調整手当」を支給する等の代償措置を考えたいところだ。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする