「絶対にムリだろう」
と夫は言う。
庭ネコのユキちゃんの捕獲だ。
娘ネコの白雪ちゃんが《さくらねこ》になってからと言うもの、
この2週間、肝心の母ネコであるユキちゃんを捕まえるタイミングを狙っていた。
保護団体から捕獲器を借りてきて、
蓋が閉まらないようにセッティングした捕獲器の中で餌やりをするなどで、慣らしてきた。
1日目は捕獲器の入り口辺りに餌の入った器を置き、
徐々に器を奥の方へ移動させて、その中で食べさせるようにする…
最初は警戒していた母娘ネコたちも、徐々に捕獲器への警戒心を解いていったように見えた。
問題はユキちゃんだけをどう捕獲器に入れるか…。
白雪ちゃんがいない時でないと難しい。
人馴れしている娘ネコの白雪ちゃんと違って、
いまだに私たちを威嚇してくるユキちゃんはヒョウのようにぴょんぴょん跳び、逃げ足が速い。
餌を食べに来るのは毎日の場合もあれば
2、3日に1度の時もある。
病院の予約日に来るとは限らない。
今日来なかったら病院をキャンセルしようと思っていた矢先、
タイミングよくユキちゃんが来た。
白雪ちゃんが食べ残した餌を食べている。
夫は絶対にムリだと言っていたが、
食べている途中に蓋を止めてある結束バンドを外せないものか…。
それに餌の器を思い切って1番奥に移動させないと捕獲器の蓋は閉まらないだろう。
餌を足すふりをして器を1番奥に押せば、
また中に入ってくれるだろうか…
試しに、ユキちゃんに話しかけながら餌を足して器を動かしてみた。
お腹が空いているのか、再び奥に入って餌を食べ始めた。
尻尾が挟まらない位置にいるのを確認してから、
気づかれないように、そっと捕獲器の蓋の両側に止めて結束バンドを外した。
ガチャンという音とともに蓋が閉まった。
ユキちゃんはびっくりして、今まで聞いたことのないような鳴き声をあげながら騒いでいる。
「ごめんね」
罪悪感に苛まれる瞬間だ。
「病院に行こうね」
と、話しかけると少し落ち着いたようにも見えた。
しばらくして娘ネコの白雪ちゃんがやって来た。
捕われた母ネコに驚いたのか、
捕獲器の周りをオロオロと回りながら、
ニャオニャオ鳴いている…
が、白雪ちゃんは自分の時の事を思い出したのか、
「白雪ちゃんと同じ病院に行くよ」
と話しかけると、
意味を悟ったのか、
急に冷静に母ネコの様子を見始めた。
さすが白雪ちゃん、頭がいい。
こうなったら白雪ちゃんに通訳を頼もう…
「大丈夫だよ、って伝えてね」
捕獲器のユキちゃんにはチュールを買ってきてあげよう。