終戦記念日になると思い出すことがある。
以下は、
子供の頃の不思議な体験…を回想した日記から。
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私と妹と従兄弟たち子供5人で夏休みにセミ取りに出かけた、今から数十年前の8月15日の午後のことだった。
遊びつかれて夕方近くになって祖母の家の近くの畦道を帰ってくると、
目の前に、不思議な格好の人が倒れているのを見つけた。
最初は、酔っ払って寝ている工事のおじさんかしら?とも思ったが、
よく見れば、
頭には鉄兜のようなものをかぶり、
背中には銃剣のような武器を背負い
手にはボロボロになった軍手。
全体は薄汚れて所々が錆付いているようだが、
一見すると、
どう見ても兵隊さん?
戦後20年以上も経っているのに、どうしてこんな格好で
こんなところに倒れているのだろう・・・・と
子供心に不思議に思った私たちは、
うつ伏せになって倒れているその人を
放っておくわけにもいかず、
大人を呼んで来ようということになって、
祖母の家まで一目散に走って帰った。
そして、祖母に
「兵隊さんのような格好をした人が倒れとるよ!!」と
知らせたのだが、
そのときの祖母は、
一瞬ハッしたような顔をしたかと思うと、急に怖い顔になり
一緒に行こうとする私たちを止めて
「あんたたちはここにおりんさい!!」
そう叱るように言ったかと思うと、小走りに出かけていった。
それから、
20分~30分たった頃だったか、
帰ってきた祖母に
「あの人どうなったん?」
と聴くと
「なんの事?」と
と、何事もなかったかのような顔で答えた祖母…
その後も祖母に、
「救急車は呼んだん?」「死んどらんよね?」
と訊いても、なぜか全く取り合ってはくれなかった。
そんな事があったことも長い間忘れていて、
久しぶりに思い出したのは、
それから10年以上も経った祖母の通夜の席だった。
親戚一同が集まって思い出話しをしていた時に、
私が従兄弟達に
「そういえば、おばあちゃんが元気な頃、不思議なことがあったよね」
と、その時のことを話すと、
一つ下の従弟が
「ああ、確かにそんなことがあったねえ…」
と答え、
それを受けて
私の一つ上の従兄までが
「うん、あれはいったい何じゃったんじゃろうね」
…と答えた。
…とその時、
それを聞いていた私の母の顔色が変わった。
そして、
「それ、もしかしたら正史兄ちゃんじゃないかねえ…」
と言い出した。
正史とは母の兄で、
第二次世界大戦でマニラに出征したまま帰って
来なかったと聞いている私たちの伯父だ。
「背格好は、どちらかというと華奢な感じじゃぁなかった?」
と訊く母に、
頷きながら、
「確かに、男の人にしては小柄な感じがした」
と答えた私、
でも、どうして戦争に行った正史おじさんがあそこに倒れていたのか…
と考えたとき、
私はハッとした…
そういえば、あの時、
私たちが見た兵隊さん風の人はまったく息をしている様子がなかった…
炎天下で外は30度近い気温だというのに、
あんな格好でいても汗臭くなかった…
というより、生きている感じがしなかった…
「あれは、夢じゃったんかねぇ」
「昼間から、みんな同じ夢を見ることがあるんかねぇ?」
と、従兄弟たちと話していると
母が、ポツリと
「正史兄ちゃんの霊が帰って来たんだねえ、おばあちゃんはわかっていたのかもねえ」
と、しみじみと祖母の亡骸を見ながら呟いた。
いつもだったら茶化すタイプの伯母までが、
「そうじゃねぇ…」
と、真顔で頷いた。
ちなみに、
私たちが倒れている兵隊さんを見た場所から10mほど上った丘には、
戦争で亡くなった人たちの御霊を慰めるための
忠魂碑が立っていて、
そこには、マニラで戦死したとされる伯父の名前も刻まれていた事を
十数年前に帰省した時に、確認している。
あのとき、
祖母と正史伯父さんは、どんな話をしたのだろうか…
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伯母は12年前に、
実母は6年前に他界、
伯父とはきっと、あちらの世界で再会しているだろう…。
73年目の終戦記念日の回想。