ロマンスカー復権と箱根の魅力向上を掲げて登場し、小田急電鉄のイメージリーダーとして君臨した50000形VSEが本日で運用を終了、引退となりました。2022年3月11日で定期運用を終了し、その後はイベント列車や個人の貸切列車に充当されていましたが2023年9月24日に第2編成が先に運用離脱、本日12月10日で第1編成も運用を終了し2005年3月19日の登場から数えて約18年9ヶ月という歴代のロマンスカーの中では最も短命な車両になってしまいました。
小田急トラベル主催のツアーとなる「ありがとうVSE!~Special Thanks & Forever~」で最後の力走を見せる50000形VSE50001編成。ラストランは3回の行程で1回目が相模大野〜片瀬江ノ島〜喜多見検車区〜唐木田、2回目が唐木田〜新宿〜喜多見検車区〜大野検車区〜秦野、3回目が秦野〜海老名検車区〜箱根湯本〜成城学園前と、最後に相応しく全線を走破するものでした。
引退前日となる9日には海老名検車区構内で撮影会も開催され引退前に晴れ姿を披露しています。筆者は運良く午前中の会に参加することができ、完全順光下での編成写真を収められました。小田急沿線民でありながら、筆者はVSEに思い入れが少なく余り写真も手元にありませんでしたが引退直前の姿を記録出来たので悔いを残さずに済みホッとしています。
愛称であるVSEの由来にもなっているドーム型天井で開放感を持たせ、僅かに窓側に客席を傾け眺望に配慮した客室内。これまでにない車両を作るという思想から鉄道車両を手掛けたことがないデザイナーに依頼することになり、建築家の岡部憲明氏が起用されたのは有名な話ですが、外観のイメージは「全長が150mのオブジェ」としながら内装も観光列車らしい配慮が行き届いた傑作に仕上がりました。
普段は進行方向窓側を向いている座席ですが、横向きにして乗客同士歓談出来るようにしたラウンジ仕様の展望席スペース。団体臨時列車やイベント時でなければ見られない珍しい様子です。展望席はロマンスカーの最大のセールスポイントですが、VSEの引退により前面展望を楽しめるのは70000形GSE2編成のみとなってしまいました。
展望席を備えたロマンスカーの減少もあり、気付けば登場時以上に人気を集めたVSEですがアルミ合金による車体に高度な技術が必要なことや国内の新造特急電車では最後となる連接構造、また車体傾斜制御などの特殊な機構が災いして早期の引退を迎えることになってしまいましたが、本来の観光特急としてのロマンスカーではこれ程完成度が高い車両はしばらく現れないのではないでしょうか。いずれはGSEの後に続く特急車の計画が浮上すると思いますが、その際にはVSEにも劣らない車両の登場を期待したいものです。