2019年7月20日、大正・昭和・平成・令和と4つの時代を走り抜け、実に100年余りの活躍に終止符を打った箱根登山鉄道のモハ103+107号車(通称サンナナ)は引退後はどうなるのか動向に注目が集まりましたが、107号車は小田原名産の蒲鉾で知られ、1865(慶応元)年の創業の老舗企業、鈴廣かまぼこ株式会社が引き取る事が決定し、風祭駅前の直営レストラン「えれんなごっそ」の前に据えられ、「えれんなごっそCAFE 107」として営業しています。
かつては何回も往来した古巣の前に置かれ、カフェとして再起する事になった107号車。屋根には箱根登山鉄道の全線復旧を祝う横断幕が掲出されています。車体は現役時代と見紛う程に美しい姿を見せていました。この至近の位置には鈴廣の風祭工場と、かまぼこ博物館も所在しています。
車体の後部から。現役時代は余り見れなかった妻面もじっくり観察出来ます。107号車は連結相手だった103号車と共に、両運転台車を片運転台化改造して2両固定編成にした車両ですが、改めて見ると元は乗務員室があったことが伺えますね。
車内にはカフェとして小型テーブルが配置され、軽食を楽しむことが出来るようになっています。元々は非冷房車でしたが、鈴廣への譲渡時にクーラー(天井に見える吹き出し口が後付けの冷房)も設置されました。なお、店名にもなっている「えれんなごっそ」とは神奈川県西部の方言で、色んなご馳走の意味です。
車内の吊り手や座席は引退時の状態を保っていますが、最終日にドアに貼られた引退記念ステッカーも存置されています。現在の登山電車で使われているステッカーの一世代前のデザインを模したもので、関東地方の鉄道事業者でよく見られる円型ながら、手のイラストが描かれておらず文字による注意書きのみとなっているのが特徴的でした。
過去にも引退した車両が保存されるケースは存在しましたが、何れも適切な整備が行われないまま解体されてしまい、サンナナの2両も廃車解体かと思われたところで107号車は地元に根差した名門企業に、そして103号車は埼玉県の日本工業大学から引き取りの打診があり、技術者を養成する為の教材として活用されることになりました。100年余りという長寿はもちろん、引退後も活路が開かれる辺り実に強運な車両だったな・・・と心から思います。