二つ星の空

(旧「風からの返信」-11.21.09/「モーニングコール」/「夢見る灯台」/「海岸線物語」)

雨あがる

2005-10-02 23:50:48 | その他映画
久しぶりに本棚を整理したら、映画のパンフレットが色々出てきた。

その中の一つ。
「雨あがる」

この頃のおいらは、黒澤明の作品はあまり観たことがなくて、しかも全部ビデオでの視聴だったから、小泉監督が継承したとはいえ、黒沢明が企画した作品を初めて映画館で観られるとあって、とてもわくわくした。

初めて観た大画面のその世界は、西洋映画に毒されていた当時の自分にとって、流れるリズムも、温度も、空気感も違う、「面食らうぐらい新しい世界」だった。ゆっくりと、淡々と、でも、力強く流れるリズム。大川の蕩々たる流れのごとく。降り止まぬ雨のごとく。

だから、はっきり言って、観ている間は居心地の悪い時間もあった。今ならわかる。当時の若い自分は、その映画に合った呼吸法を知らなかったのだ。

映画には、その監督が創り出すリズムがある。自分のリズムが速すぎても遅すぎても、観ていて苛々したり、置いていかれたりする。(そういうのをきっと、「相性」と表現する人もいるんだろうけど。ある程度観る側のリズム感次第のような気がするんだよなぁ。)

今の自分は(年を経たせいか、何度も作品を観たせいか)、以前よりもしっくりと、映画に寄り添って楽な気分で、この作品を観られるようになった。

雨上がりの、濃厚な水分を孕んだ空気の中の、伊兵衛。
彼がまとっている殺気。その周囲の森の荘厳な美しさ。その対照。

晴れ待ちの小屋で表現される、極端なまでの屋内の暗さと、それにより際だつ灯りの暖かさ。

等等。

そして、作品全体が、何と清々しい信念と祈りで守られていることか。

だんだんと、この映画は楽しめるようになってくる。


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黒澤明監督の覚え書きより

「これは、主人公とその妻のドラマである。まず、その二人の関係をじっくりと描かねばならない。夫の愛に生きている妻は、そのままの生活で満足している。しかし夫は、貧しい生活が妻を不幸にしていると思っている。もっと出世してもっと楽な生活を送らせようと齷齪(あくせく)している。妻は、そんな夫を見ているのがつらくて、悲しいのに、夫には妻の心がわからない。

時-享保、戦国時代が終わり、次にその反動として奢侈逸楽(しゃしいつらく)を追う元禄時代になる。そして、それに飽きそれを遠ざけて、質実尚武を尊ぶ享保時代が来る。これは、その時代の話である。

見終って、晴々とした気持ちになる様な作品にすること。」(以上引用)
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ほんとに、見終わった後に、清々しい気持ちになるんだよなぁ。好きな作品だ。
コメント
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