ウード奏者 松尾 賢 のブログ(アラディーン主宰者)

ウード奏者、ダラブッカ奏者、サズ奏者、歌手、アラブ、トルコのオリエンタル音楽演奏家・作曲家である松尾賢のブログ。

ウードの指板の修理(その4:ウレタン樹脂コーティング:完成)

2019-09-15 14:43:00 | 音楽

結局、エポキシ樹脂コーティングの作業はある程度のサンディングで止めて、あとはコンパウンドで仕上げれば良かったにも拘らず、結局は削り過ぎてしまい、想像した形に仕上がりませんでした。

もう少し時間に余裕があれば、もう一度、エポキシ樹脂をコーティングして、コンパウンドで仕上げて、という事で良かったのですが、

実はお披露目したいライブに間に合わせたかったので、この作業とは別の事を考えないといけなかった訳です。

いろいろと調べた結果、ウレタン・クリアー樹脂でコーティングすれば削る作業も無い、という事でスプレータイプのウレタン樹脂を吹き付けて仕上げる事にしました。

こちらも様々なレビューを見て、選んだのが「ソフト99コーポレーションのボデーペン ウレタンクリアー」。

硬化が速いだけでなく、透明度が高く、黄変もしない上にツルツルで傷つかず、という優れもの。

ウードをマスカーで完璧に覆い、ウレタン・クリアーを、合計で10回吹き付けました。硬化時間は12時間と早く、

12時間後、結局吹きダレしてしまった処や、ゴミが付いたところを400番の紙ヤスリで削り取る作業も難なく行え、コンパウドで仕上げる事も出来ました。

結果は、完璧!満足行く結果となりました。弦による指板の削れは、今のところ全くありませんし、傷も擦り跡が付くだけで傷と言えるものではありません。

今後新しいウードを購入する際は、指板にゴルペ板を貼る事はやめて、このウレタン・クリアーでコーティングする事にしようと思っています。

さて、エポキシ樹脂コーティングによる音への影響ですが、やはり鳴りは少し悪くなります。特に私のウードのような問題の場合、低音の鳴りに影響がありましたが、

これは現段階で想像するに、弾き続けていけば結果的にはクリアできるようです。つまり別の部分を鳴らしていく、という事になるのでしょう。

それはそれとして、高音域の操作性については、指板の固さも含めて気持ち良く正確に音が出せるので、やはり苦労してやった甲斐がありました。

1.ソフト99コーポレーションのボデーペン ウレタンクリアー。これはお薦めです!

 

2.先ずはマスカーで完全に覆います。エポキシ樹脂の時にも、最初からこうするべきでした(泣)

3.後ろ側も完全にマスカーで覆います。

4.決行当日。丁度前日に雨が降ってくれていたので、ホコリが少なくラッキーでした!スプレーの吹き付け方は、YouTube に吹き付け方法のお手本がありますので、参考にしてください。
吹き付けて10分して、再度吹き付け。この作業を都合10回行いました。約2時間ぐらいの作業時間でした。

5.さて、説明書通り、吹き付け後、12時間で完全硬化します。液だれ、ゴミなどを400番ぐらいの紙ヤスリで軽~く削っていきます。
この作業もYouTube で参考動画がありますので、作業前に十分調べてから行いましょう。(便利な世の中だ!)
10回吹き付けているので、コーティング層はかなり厚いので安心してサンディングできますが、決してゴシゴシやらないこと!

そのゴシゴシをやってしまい、あわや、もう一度!という危機に陥りましたが、そこはコーティング層が厚かったために助かりました。600番の紙ヤスリで仕上げたところ

6.そして、最後にコンパウンドで仕上げます。車を持っている人なら良く知っているコンパウンド。粗目のコンパウンドを塗って表面をならし、仕上げのコンパウンドを使って鏡面に仕上げます。各コンパウンドごとに新しい専用の布を使う事。そうしないと綺麗に仕上がりません。この辺のこともYouTube でしっかり学べるので、是非とも作業前に学んでください。

7.完成!ツルツルのピカピカのカチカチに!
ただ、やはりエポキシ樹脂層が薄いところは指板表面の木の繊維が表れます。もちろん、音には何の影響もありませんし、第一に、木は繊維があるのが当たり前。
とはいえ、エポキシ樹脂層が厚い処は、完全にフラットな鏡面に仕上がります。

8.別角度から映してますが、こんな感じでピカピカ。

一番修理したかった胴体部分の指板とネックの指板の高さと、その接続部分の差もなくなり、完全な一体の指板となりました。

 
 
 9.エポキシ樹脂に張り付いたマスキングテープの残存部分を丁寧に剥がしている処。
 
 
 
 10.弦を張って完成!ロゼッタの修理はいずれ。
 
 
11.今回の修理した高音域の指板部分。以前修理した部分も合わせると、合計で6mm も盛り上げたことになりました。エポキシ樹脂部分は4mm。
 

ウードの指板の修理(その3:エポキシ樹脂コーティング)

2019-09-15 13:13:15 | 音楽

さて、透明粘土の失敗後、エポキシ樹脂によって指板コーティングを決意。使用したのは日清クリスタルレジン。理由は少量の購入ができる事と、透明度の高さ、黄変がないこと、などをリサーチして、これに決定。

また、数々の「フレットレス・ベースの作成」を行った先輩方のブログを読みこなし、挑戦することに。

まず、必要なものを買い揃えないといけないのですが、渋谷の東急ハンズを利用したところ、必要なものがここで全て揃いました。

1.日清クリスタルレジン・セット(少量で十分)
2.デジタル計量器(0.1mgまで測れるもの)(必須)
3.ポリプロピレン板(型用)
4.マスキングテープ
5.マスカー
6.ノギス
7.水平器
8.万力
9.紙やすりセット(100番から~600番)
10.コンパウンド・セット

エレキベースだと、最大で1mm位「盛る」必要があるようですが、ウードだと0.3mm位で十分。

が、これが一度で成功することなく、何度が失敗を繰り返して、漸く成功したものの、結局はウレタン樹脂コーティングを行うことになりました。

1.エポキシ樹脂がくっつかないポリプロピレン板で型を作ります。この時、マスカー持ってたんだから全部覆えばよかったのですが…。後の祭りとなり、レジンが漏れて大変な事に。更には、レジンに絵の塗料が溶け出し、結局、指板の絵は辛うじて残ったものの、ぼんやり透けて見えることになしました。

 
 
 2.胴体が落ち込んでるので、型板がこんな風に浮き上がってしまっています。この辺りまでは予想通り。
 
 
3.レジンの漏れを予想してしっかりマスキング。これは成功しました。
 
 
4.透明粘土の型w。「失敗は成功の基」の言葉通り、これは必要とする胴体のレジンのパーツの寸法を測る事が出来、役立つことに


5.サウンドホール部分の型。
 
 
6.今回の修理で、一番必要とされる部分の型。これはも例外は最終的に成功しました。今思えば、マスカーでウード本体を完全に覆っておけば良かったのですが…。甘かった。
 
 
7.型の出来上がったところ。これはこれで良かったのだが。
 
8.残念ながら、この絵はこの鮮明さが失われることになるので、見納めとなりました。
 
 
9.弦巻の部分の型。これも結局はレジンが漏れ出し、大変な事に。何度も書きますが、マスカーで先に覆っておくべきでした。
 
 
10.レジンをデジタル測りで慎重に0.1mgまで測って、完璧な比率で作ったところ。プラスチック・カップが使えるので、これはお薦めです。結局、都合4回も、この作業を行うことになりましたw
 
 
11.水平器で、完璧に水平を保ちます。
 
 
12.ウードはボディが丸いので、縦、横の水平を保つのが難しいので、しっかり、縦横の水平を作ります。私はタオルをウードのボディ下に使って水平を作りました。
 
 
13.ポリプロピレン板の型を万力でしっかり締め付け、レジンを型に流し込みました。日清クリスタルレジンは気泡ができにくいとはいえ、やはり出来てしまうので、絵の長いライターをつかい、気泡の上からライターの火で熱すると、気泡は簡単に取れます。もちろん、レジンに直に火をつけないこと。(液体なので、引火はしませんが)
 
 
14.さて、硬化時間は24時間という事ですが、半日経って、ある程度硬化した所で、レジン漏れを確認したところ、やっぱり漏れてた!この段階では、柔らかいので、手ではがせるので、硬化前に漏れをはがします。早目に気付いてよかった!
 
 
15.表面板は綺麗に盛れたよう。
 
 
16.漏れたところ。これはまだ硬化前なので、手で簡単に剥がれるので、どんどん剥がしていきます。
 
17.こんな感じで剥がれます。
 
18.心配したとおり、ロゼッタ部分にも漏れ出し、サウンドホールから内部に漏れが!!結局ロゼッタを壊して胴体内に侵入したレジンを剥がす羽目に。
 
 
19.結局、こんな感じに(泣)。型を作って流す方法だと、レジンが厚くなりすぎ、削る作業が大変になるので、ネック側に流したレジンは剥がし、再度別の方法でレジン・コーティングを行う事にしました。


20.必要な部分は上手く残せたものの、型を使うと、表面張力で端っこの処が盛り上がってしまうので、成形が大変。
 
 
21.で、結局は、第1陣のレジンが完全に硬化した後、ネックをマスキングテープで再度マスキングし、刷毛でレジンを塗りましたが、これも結局、表面張力と指板の木が吸い込むためにムラが出来ます。
 
 
22.第2陣のレジンの硬化後。こんな風にムラが大きく残ります。


23.第3回のレジン塗布後。なぜかボディ近くの部分にムラができるので、硬化後、第4回のレジンを更に盛ります。
 
 
24.4回目のレジンで綺麗にコーティングが出来ました。つまり、ここまで5日を要しました(汗)
 
 
25.完全にコーディングしたと言っても、こんな風に表面は凸凹状態。
 
 
26.出っ張った処を、まずはヤスリで削ってならします。
 
 
27.その後は100番ぐらいの紙ヤスリで表面を均一にしていきますが・・・。
 
 
28.ある程度削っては、弦をはり、不具合がないか調整していきますが、ここが一番、根気の必要なところ。何度も行います。
 
 
29.結局、使えるところまで削ると、ネックの指板の部分のレジンがほぼ無くなってしまいました。残念!!


30.600番の紙ヤスリで綺麗にならしたところ。
紙ヤスリで指板を削る際には、右下に見えるようなサンディングブロックを必ず使ってください。個人的には、スティキット・サンディング・ブロックがおすすめ。
 
 
 

ウードの指板の修理(その2:失敗例)

2019-09-15 11:18:50 | 音楽

さて、エポキシ樹脂で盛り上げる工程の前に、もっと簡単な方法は無いか、調べてみて試した結果、失敗したことも書いてみたいと思います。

先に書いたように指板に絵を描いたが為に、
①、透明なモノで
②、指板を盛り上げなければならない、
という条件をクリアする為に、色々とリサーチした結果、透明粘土を使ってみようと思いつきました。

透明粘土ならば加工しやすいし、必要とあらば、上からゴルペ板(透明なプラスチックの板)を貼ればイイや、と気軽に考えていました。

結果は、先に書くと失敗。

まず、透明粘土は「シリコン」なので、指板に必要とされる木と同じ硬さにならない上、下の指板に接着しませんw

綺麗にペリペリと、剥がれましたw

更には、紙やすりなどで削れない、加工できない、という事で、全くの失敗。

が、この剥がれた指板が「型」となり、どの位の厚さまで盛れば良いのか、実感できたのは不幸中の幸いでした。

実際、その「型」は、最大で4mmも幅があり、どんだけ胴体側に指板が沈み込んでいたか判明したわけで、これはエポキシ樹脂でやるしかない、と決意させてくれた訳です。

その工程は、

1.先ずは先貼っていたゴルペ板はがし。
アイロンをゴルペ板(アリアの市販の物)の上にかけ、糊を熱すると簡単に剥がれます。アイロンかけないと、指板の木が剥がれますから、必ずアイロン、またはドライヤーで熱して糊を無力化しましょう。
熱した後のゴルペ板をはがす時はスクレーパーで指板を傷つけないように丁寧に慎重に行います。

2.綺麗にゴルペ板が剥がれました。

3.透明粘土。粘土板、コネ棒。そしてヘラを用意。

4.硬化剤を混ぜて大体の大きさになるまでコネ棒を使って貼り付け用の「指板」を作りました。

5.加工したい部分に貼り付けます。(結局は十分な接着力が無くて失敗しますが。)

6.コネ棒で必要な厚さになるまで伸ばします。(成功すれば、一番良かったのですが、残念ながら、これは結果的に失敗)

7.余分にはみ出た部分をヘラで切り取ります。

8.形も厚さも整ったところ。これがカチカチになって接着力あれば大成功だったのですが…。残念。

9.見てわかる通り、結構な厚さ。測ると4mm の厚さ。 

 10.これがカチカチのプラスチックになれば良かったのに。誰か発明してくれませんか?

(つづく)


ウードの指板の修理(その1)

2019-09-15 03:34:37 | 音楽

怒涛の日々が終わったので、ここらでウードの指板コーティングの苦闘の日々の記録を記事に残しておこうと思います。

事の起こりは、私がオーダーメイドで購入したトルコ製のウードの高音域の指板が、全く役立たずだった事が原因です。

トルコ・ウード、というより、ウードは元々、胴体上の指板ととネックの指板が同一の高さで製作されるのが一般的だったのですが、

20世紀後半あたりのアラブ世界で制作されるウードは、ネックと胴体の上に一枚の統一した指板を張るのが一般的になりました。

(写真は2007年に購入した伝統的なタイプのウード(トルコ製):見ての通り胴体からネックが出ているかのように制作されており、胴体部分には指板は無い。)

そのおかげで弦高もとても低くなり、弾きやすくなり、更に消耗品である指板の張替も容易になるという、画期的な進歩が起きた訳ですが、

(写真は私の初代7コース・ウード。21世紀型の進歩したウードと言ってもよいと思いますが、ご覧の通り、ネックと胴体部分の上に一枚の指板が張り付けてある形になっています。)

さて、私のオーダーしたウードは、胴体上に指板が貼ってあったものの、結局は、伝統的なトルコ・ウードのままで、購入した当時(2015年6月)から胴体部分が沈み込んでしまっていて高音域が弾けない状態でした。

なので、その部分にパテ埋めして指板の高さをネック部分と揃えた工事をして何とか高音域を弾きやすく仕上げた訳ですが、

結局、購入して4年経ち、胴体部分は更に沈み込んでいき、結局高音域が弾き辛くなっていきました。

この問題を解決するにはどうすれば良いか?

更にもう一つの問題は、前回パテ埋めした部分に絵を描いてしまった事。この上から木工パテで埋めしてしまうと、折角描いた絵が消えてしまいます。どうした物か?

実はこの問題は、装飾が凝っているウードについてもいえる事で、指板に凝った細工がしてあるウードだと、木工パテで盛り上げる、なんてことも、新たに指板を貼り付ける、という事もできません。

それらを全て解決する方法を、ずっと考え、様々リサーチしていましたが、結論として透明なエポキシ樹脂で指板を盛り上げる、という事を考え付いたわけです。

(つづく)