ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

「もうだめだ。僕らで動こう。僕らで考えよう。僕らでこの国を変えよう。だって僕らの国なんだからさ」変身

2014年10月04日 | 日本とわたし
もうひとつ、中村隆市さんが書かれた、ドキュメンタリー映画『変身 - Metanorphosis』と、その制作者である堀潤さんについての記事を、紹介させていただきます。

このドキュメンタリー映画『変身』が出来上がった頃のことを、まだ覚えています。
異様な緊張が、制作者の堀さんとNHKとの間に存在していたこと、それの前後に、堀さんが、ドキリとするようなツィートを何度もされていたこと、
いったいどうなるのだろうと、自分のことのように心配していました。

そのツィートの中から、少しだけ抜粋したものを、この記事の最後に載せました。
堀さんが高校生の頃に、松本サリン事件が起こりました。
そしてその時、何の罪もない会社員の方が、マスコミによって、みるみるうちに犯人に仕立て上げられたのを目の当たりにし、
その後大学では、プロパガンダに興味を持ち、「ナチスドイツと太平洋戦争下のNHK」を卒論のテーマにしました。

日本を代表する放送局のNHKが変わらなければ、日本はいつまでも変われないと思い、
どうせなら、自分がNHKの中に入って、内側から変えてやろうと考え、
だから、最終面接でも同じような話をしたそうです。

理事から、
「君は、NHKみたいな大組織を、変えられると思ってるのか?」と聞かれたので、
「一生懸命話をすれば、変わると思います」と答えました。
そうしたら、面接官が、ワハハハハと笑って、
「そう思うんだったら、一緒にやっていこう」と言ったんです。
だから、それが、僕とNHKとの約束だと思っていたので、NHKを変えるために、一生懸命頑張っていたんです。

http://news.nicovideo.jp/watch/nw590393

だけども叶わなかった。
どうにもこうにも変えられることなどできなかった。
いろいろないきさつがあっただろうと思います。

彼のように名前が知られているわけでもない、市井の人たちの中にも、大変な思いをしながら、これまでの生活と折り合いを付けながら、
なんとかこの国の在り方を変えたいと、一所懸命に考えたり、行動したりしている方々がおられます。

中村さん同様、わたしも、そのような方たちを、できる限り支え、応援していきたいと思っています。

↓以下、転載はじめ

原発事故から3年半。
福島の子どもの甲状腺がんが、(疑い含め)100人を超え、様々な病気が増え始め、
急性心筋梗塞と、慢性リウマチ性心疾患が、全国平均の2.4倍以上に急増する今、

http://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-17684

人気アナウンサーだった堀潤さんが、NHKをやめてまで表現したかったドキュメンタリー映画」を、多くの人に見てほしいと思います。
そして、こうした素晴しい映画を、多くの人に見てもらう事業にチャレンジしている、「若き社会起業家たち」を再度、紹介します。

◆中村 隆市のレビューから
http://unitedpeople.jp/henshin/archives/1660

ドキュメンタリー映画 『変身 - Metamorphosis』を観た。
素晴らしい映画だった。
堀潤さんが、将来の生活が保証されたNHKアナウンサーを、やめてまで表現したかったのは何か。
私がこの映画を観たかった最大の理由が、それだった。

映画は、福島第一原発3号機の爆発から始まる。
がんで亡くなられた吉田昌郎所長が、叫ぶ。
「本店!本店!大変です!大変です!3号機、今、爆発が起こりました!」
「現場の人は退避!退避!緊急連絡・・・」
 

次に場面は、2013年6月の、浪江町に変わる。
児童か生徒が避難した、学校の荒れた教室の窓から、原発が見える。
これほど近くに学校があることに、今更ながら驚く
 
2012年夏の、大飯原発再稼働に反対する、歴史的な国会大包囲デモを経て、映像は、カリフォルニアのシミバレーに変わる。
半世紀前に起きた、サンタスサーナ原子炉実験場事故で、43本の核燃料のうち13本が溶け出して、膨大な放射性物質が放出されたと見られているが、
政府は、「大気中への放射性物質の放出はなかった」と発表。
地元の住民は、深刻な放射能汚染の実態を、知らなかった。

30年後に実態がわかったとき、花を栽培していた女性は、恐怖を感じた。
日常的に土にさわっていたその女性は、2009年、白血病と診断された。
甲状腺の手術もした。
情報を隠してきたことについて、米国エネルギー省の担当者はこう言った。
「念頭に置いておいてほしいのですが、この施設は非常に軍事的で、機密性の高い場所です。
簡単に、『ここに原子炉があるぜ!』とは公言できません」
 

住民の要請を受けて、国が、放射能汚染の実態調査に着手したのは、実に、事故から50年後の、2009年だった。
セシウム137の汚染数値が、通常の1000倍と発表された調査報告会で、おじいさんが、報告者にこう聞いた。
「私たちが主に心配しているのは、長期にわたって流れ出てくる水や物質、空気中にある粒子で、どんな影響を受けるかです。
妻は4つのがんを患っていて、もうすぐ、また別の手術を受けるかもしれません。
私たちが何に、どんな影響を受けるのか、それを誰に聞けばいいのか、知りたいんです」 
「1週間ほど前に、この地域は、乳がんになる率が州で1番高く、おそらく、国内でも1番高いという調査結果が、記事に出ていました」 
「シミバレー育ちの、12人の40歳以下の若い女性たちが、乳がんになったのです、凄い数ですよ」
 

ここまで観て、この映画は、特に、福島をはじめとする東北、関東の人に、観てほしいと思った。

さらに映画を観ていくと、
福島原発事故の後、国は、風向きなどによって、放射性物質が流れる方向を把握していたが公表せず
避難者が、汚染がひどい地域に「避難」した事実
を追う。

2011年3月14日、東電がベントをするときの様子が、録画されている。
「今、風が、陸地側、双葉町方向に向って吹いています
放出にあたっては、ヨウ素の放出量が、桁違いに上がります
 
吉田所長:
現場の作業員、うちの社員、1回、こちらに退避させてよろしいですか? 

武藤副社長・原子力立地本部長:
了解しました。

吉田所長:
退避命令出します。 
被ばく評価の結果出ました。
最大ポイントは、2.2km先、ちょうど敷地境界あたりで、5700ミリシーベルトです。
250ミリシーベルト圏内が、ずっと相馬郡の方まで、3時間で広がっていく評価になります。
今、プレスには話すのを(情報を流すのを)止めています


映画は、もし、放射性物質拡散予測システム「SPEEDI(スピーディ)」の情報が公開されていたなら、
放射性物質が少ない方に逃げたり、室内で待機することで、無用な被ばくをせずにすんだであろう
こと。
少なくとも、放射性物質が多い方に逃げることはなかった、ということを検証する。

次に、映画は、原発事故処理の作業員として、現場に潜入した男性が、自身も被曝しながら撮影した映像を、映し出す。
東電の下請け作業員として働く、作業員の大半が、全国から集められた「日雇い」で、18歳、19歳の未成年も含まれている
放射線の知識もない素人たちの集団が、「ウソの履歴書」で経験者に仕立てられ、現場に送り込まれる。


現場は、
「1分間に1ミリシーベルトを浴びる」驚くべき高線量下での作業であることが、明かされた。
作業員たちから、「不安の声」が上がった。
雇用会社の担当者は、
「1日1ミリ浴びても、8日経てば半減し、ゼロになる」と話し、放射線の影響は蓄積されない、と説明した


高線量の被ばく作業をしながら、2ヶ月間に渡って、不正の現場を撮影した男性が語る。
「作業をやってきて、どう考えても40年、50年では終わらないだとろう。
ということは、自分らは40年、50年は生きられないので、これから生まれてくる誰かが行かないと、何ともならないんじゃないか。
あの原発は、1ワットも生み出せないんで、処理するためだけに、これから生まれてくる人が放射線を浴びる。
原発をつくってきた人たちは、自分たちで片付けられるんならいいけど、実際できてないし、できないじゃないですか」


この言葉は、すべての日本人が、心に刻む必要があると思った。

後半、『レベル7』の福島原発事故よりも、レベルが2つ低い『レベル5』の、スリーマイル島原発事故で起こった被害の実態を、取材していく。
原発事故当時の風向きと、ガンの発生率が関連し、スリーマイル事故とガンの増加に、因果関係があることがわかる。
被ばくした量に応じて、ガンが増えている。



堀潤さんが、NHKをやめてまで表現したかったことを、一人でも多くの人に観てほしい
そして、一人でも多くの人に、上映会を開いてほしいと思う。
この映画を配給しているユナイテッドピープル社は、
原発事故の後、本社を関東から福岡に移転させ、地域での市民運動にも参加しながら、
「人と人とをつなぎ、世界の問題を解決する」をミッションに、Webメディアの運営、映画配給・宣伝を行なっている。


◆ドキュメンタリー映画 『変身 - Metamorphosis』 
https://borderlesspeople.com/movies/4


----こうした素晴しい映画を広めている、若き社会起業家たち----

「戦争、貧困、人権、環境問題など、世界の課題を、人と人をつないで解決する」
「ビジネスを通して社会を変えることができる」と確信している、若い社会起業家たちが手を組んで、「ペイフォワード」の映画館版を始めました。

■ボーダレス・ピープル
https://borderlesspeople.com
非常に意義深い、楽しみな取り組みです。
これを始めた2つの会社の経営者は、どちらも30代

■ユナイテッドピープル株式会社
http://unitedpeople.jp/
一人ひとりをつないで、よりよい世界をつくっていく。
ユナイテッドピープルという社名は、文字通り、人と人の連帯を意味します。
人と人をつないでいき、力を合わせて、よりよい世界を創っていきたい。
そんな願いを込めて、ユナイテッドピープルという社名を選びました。
戦争・紛争、饑餓・貧困、人権、環境問題など、 私たちが生きている世界には、多くの難しい問題が存在します。
どの問題も、決して、解決することは簡単ではありませんが、
私たち一人ひとりが、力を持ち寄り、知恵を出し合えば、 きっとどんな大きな問題でも、解決できるはずです。
誰かが問題を起こすことができれば、 誰かが問題を解決することだってできるのです。
組織を超え、国を超え、人種を超え、宗教の壁を超え、 一人ひとりをつないでいく
私たちは、世界中の人と人をつなぎ、様々な問題を解決し、すべての人が共に幸せを分かち合える社会を創るために、貢献していきます。
奪い合いから、分かち合いの世界へ

■株式会社ボーダレス・ジャパン
http://www.borderless-japan.com/
「貧困」「環境」「人種差別」など、私たちが住む世界には、解決すべき問題がたくさんあります。
これらの問題が生じ、また、なかなか解決されない理由は、人々の無関心によるものかも知れません。
私たちは、この問題の解決に、ビジネスという、人々の生活に欠かせない「経済活動」からアプローチすることで、
より継続的・循環的な取り組みと、問題の解決を実現します。

(中村コメント)
ボーダレス・ジャパンは、
「偏見のない世界をつくる多国籍コミュニティハウス」
「(途上国の)貧困農家にハーブの有機栽培をしてもらう事業」
「 バングラデシュから児童労働をなくす子供服」など、
日本(東京・福岡)・韓国・バングラデシュ・ミャンマーを拠点に、意義深い、多様な社会事業に取り組んでいます。

↑以上、転載おわり

↓以下に、『変身 - Metamorphosis』の簡単な紹介を、付け加えさせていただきます。

◆ドキュメンタリー映画 『変身 - Metamorphosis』
https://borderlesspeople.com/movies/4





福島第一原発事故においては、NHKを含む大手メディアによる報道では、ほとんど伝えられなかった事故の実態が、
インターネットでは先んじて、情報が伝達されていたことを、明らかにしていく。
情報が公開されない中、放射線が高い地域に避難してしまった、被災住民
原子炉の爆発を食い止めるために行われた、ベントによって放出される、莫大なレベルの放射能量の数値を、公的に発表しなかった政府
被曝を余儀なくされる原発事故収束作業への、お粗末な放射線教育の事態
“原発安全神話”にあぐらをかいて、事故発生時の住民避難計画が、いかにお粗末なものだったかを暴露する。

原発事故の収束作業は、国や東京電力の予測でも40年。
未来の世代まで続く問題だ。
半世紀前に起きた、サンタスサーナ原子炉実験場事故などのように、忘却していっていいのか?
被災住民は、どうなっていくのか?
決して忘却してはならない現実が、今、明らかになる。


↑以上、引用おわり

そして以下の言葉は、掘氏が、ツィッターで発信したものからの抜粋です。

「国や組織に期待してはだめだ。もうだめだ。僕らで動こう。僕らで考えよう。僕らでこの国を変えよう。だって、僕らの国なんだからさ」(11年12月)

「国民の生命、財産を守る公共放送の役割を果たさなかった。私たちの不作為を徹底的に反省し、謝罪しなければならない」

「僕が、UCLAで作った映画が、局内で大問題になり、ロスで、米国市民の皆さんが企画した上映会も、中止に追い込まれました。
『反原発と言われるものは困る』と、指摘を受けましたが、事故が起きたことによる、不条理な現状を描いているに過ぎません。
市民が共有し、未来に活かさなくてはならないものです」

「米国市民からは、突然の上映中止の通達に、『日本ではこれが日常なのか?』と、怒りを通り越して驚き、理解ができないという声が上がっています。
僕が、学生の時に研究した太平洋戦争下の状況と、本質は変わりません。
公共メディアは誰のものか?
知る権利を有する、市民のものです。
表現の自由を有する、市民のものです」
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「規制委員会は九電の代弁者にすぎず、まるで〝子どもの使い〟。これほど杜撰な審査は無効だ」石橋教授

2014年10月04日 | 日本とわたし
自然に対抗するのではなく、自然に添う。
今あるもので足る、という気持ちを強く持つ。
世間で伝えられていることを鵜呑みにしない。


あの凄まじい原発事故が起こってから、今まで隠されてきた物事の暗部を、否が応でも見聞きし、それらの事について考えているうちに、
はじめに書いた三つの考え方を、今さらながらではありますが、しっかりと身につけていたいと思うようになりました。

自然に抗うことは、愚かで意味が無く、犠牲を伴います。
一時の快楽や快感のために、あるいは便利で快適な生活のために、わたしたちが壊してきたものに、思いを馳せなければなりません。

先日、地球温暖化と再生エネルギーについての映画を、近所の市民センターで観ました。
鑑賞後、部屋に居た人たちと、いろいろと話をしました。

世界中に、地球の未来を憂い、なんとかして良い方に向けていこうと、一所懸命頑張っている人がたくさんいます。
けれども、未来がどうした、そんなこと知るかとばかりに、人殺しの武器を作り、売り、使わせようと躍起になっている人、
今までがそうだったからと、どんな事が起ころうが、まるで何も無かったかのように、これまで通りを維持しようとする人、

莫大なカネや権力を持つ、けれども人でなしに成り下がった人間と、巨大化した企業や組織が結託して、
わたしたち市民を、まるで小さなアリのように、靴の裏で踏みつぶし、長い年月をかけて作り上げてきたコミュニティを破壊し続けています。

それだけではなく、大きな勘違いをしていて、どうにもならない、手に負えない自然までもを、自分たちはなんとかできると思い、
あるいは、自分たちが生きている間だけは何も起こるはずがなく、死んでしまえば後のことなどどうでもいいと思い、

地球そのものを、もはや再生し得ない状態にまで追いつめています。

日本の原発の燃料に、もう二度と、熱を与えてはいけません。
これだけは、市民の声と行動で、とにかく止めなければなりません。
それができにくくなるように、違憲な法律を急いで成立させようとしています。
どちらも、今止めないと、本当に日本の未来はとんでもない方に向かっていってしまうと思います。

中村隆市さんが、ご自身のFacebookのタイムライン上で、紹介してくださった記事を、ここに転載させていただきます。

中村さんのブログ『風の便り』は、よく読ませていただいているブログで、ここにも何度か紹介させていただいたことがあります。
今回は、Facebookでの、隆市さんのコメントと共に、興味深い写真を転載させていただきます。

↓以下、転載はじめ



世界のM7以上の大地震が起きている場所と、原発の立地が重なっている場所の大半は、日本にありますが、
2011年3月11日まで、
「原発は大きな地震や津波には耐えられない」というのは、デマだと言われていました
多くの人は、
「原発は安全です。地震がきても大丈夫です」という、電力会社や政府を信じていました

全国の電力会社が加盟する、電気事業連合会のホームページには、こう書かれていました。
「日本は世界有数の地震国です。
例え大きな地震が起きても、周辺の人々や環境に放射性物質による影響をおよぼすことのないよう、
原子力発電所では、設計から実際の建設、運転に至るまで、万全の地震対策を行っています」


2004年に、マグニチュード9.0のスマトラ沖地震と大津波を経験しても、彼らの態度は変わりませんでした。
そうした中で、神戸大学の石橋克彦教授は、地震大国である日本に原発は危険だと、警鐘を鳴らし続け、2005年には、国会でも警告しました
http://www.stop-hamaoka.com/koe/ishibashi050223.html

《最大の水位上昇がおこっても、敷地の地盤高(海抜6m以上)を越えることはないというが、1605年東海・南海巨大津波地震のような断層運動が併発すれば、それを越える大津波もありうる》
《外部電源が止まり、ディーゼル発電機が動かず、バッテリーも機能しないというような事態がおこりかねない》
《炉心溶融が生ずる恐れは強い。そうなると、さらに、水蒸気爆発や水素爆発がおこって、格納容器や原子炉建屋が破壊される》
《4基すべてが、同時に事故をおこすこともありうるし(中略)、爆発事故が、使用済み燃料貯蔵プールに波及すれば、ジルコニウム火災などを通じて、放出放射能がいっそう莫大(ばくだい)になるという推測もある》


こうした警告に、経済産業省原子力安全・保安院も、原子力安全委員会も、政府も、聞く耳を持ちませんでした

そして、2011年3月、石橋教授による原発震災の警告は、ほとんどが現実となりました。
http://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-3236

この石橋克彦・神戸大学名誉教授が今、再び重要な警告を発しています。

◆「原発震災」を予言した地震学者 石橋克彦氏が告発

「川内原発再稼働の審査書決定は無効だ!」から抜粋
(週刊朝日 2014年10月3日号)9月24日配信

九州電力の川内原発(鹿児島県)が、再稼働に向けて、急ピッチで動き始めた。
審査書を原子力規制委員会が正式決定し、政府は再稼働を進める、という文書を交付した。
だが、「原発震災」を早くから警告してきた、地震学者の石橋克彦・神戸大学名誉教授は、審査書は無効だと訴える。

 
これまで、川内原発の審査書に対する批判は、火山噴火が軽視されているとか、避難計画が不十分であるとかが大半でした。
しかし、地震に関して、重大なことが見過ごされています。
 
福島原発事故の反省に立って、原子力規制行政が抜本的に改められ、国民の不安と不信を払拭(ふっしょく)すべく、新規制基準が作られたはずです。
全国初となる川内原発の審査書は、その試金石です。
 
ところが、新基準自体の欠陥は、脇に置くとしても、新基準のもとで規制委員会がきちんと審査したかというと、実は、それが驚くほどいい加減なのです。
 
九州電力の申請書は、9月10日、規制委員会によって、「新規制基準に適合する」と認められた。
12日には、政府が再稼働を進めることを明記した文書を、上田隆之・資源エネルギー庁長官が、鹿児島県の伊藤祐一郎知事と、同県薩摩川内市の岩切秀雄市長に手渡した。
政府のお墨付きを得たことで、九電は、再稼働に向けた準備を、着々と進めていくことになる。

 
だが、石橋氏は、月刊誌「科学」9月号に、そもそもの審査がおかしい、と批判する論文を発表した。
どういうことなのか。
 
一言でいうならば、耐震設計の基準とする、揺れ=「基準地震動」を策定する手続きが、規則で決められているのに、それを飛ばしているのです。
これは、基準地震動の過小評価につながり、法令違反とさえ言えます
 
原発の安全上重要な施設は、基準地震動に対して、無事であることが求められています。
そのため、「内陸地殻内地震」「プレート間地震」「海洋プレート内地震」について、
敷地に大きな影響を与えると予想される地震を複数選び、それらによる地震動を、検討することになっています。
 
しかし九電は、活断層による内陸地殻内地震しか、検討しませんでした
プレート間地震と海洋プレート内地震については、揺れは震度5弱に達せず、原発に大きな影響を与えない、として無視したのです。
 
実は、けっしてそうは言い切れません。
地震学的に、具体的な懸念があるのです。
ところが、審査では、九電の言いなりにしてしまった
 
『プレート間地震』については、社会問題にもなっているように、内閣府の中央防災会議が、駿河湾~日向灘に、マグニチュード(M)9級の南海トラフ巨大地震を想定しています。
そこでは、川内付近の予想最大震度は、5弱に達しています。
 
しかも、これは、全体の傾向をみるための目安にすぎないので、特定地点の揺れは、別途検討するように言われています。
震源のモデルを、安全側に想定すれば、川内では、震度6になるかもしれません。
 
海洋プレート内地震については、九州内陸のやや深いところで発生する、「スラブ内地震」が重要です。
「スラブ」というのは、地下深部に沈み込んだ海洋プレートのことです。
 
1909年に、宮崎県西部の深さ約150キロで、推定M7.6のスラブ内地震が起こり、宮崎、鹿児島、大分、佐賀で、震度5を記録して、各地に被害が生じました。
スラブは、鹿児島県の地下にも存在しますから、もっと川内に近いところのスラブ内大地震を、想定すべきです。
そうすれば、川内原発は、震度6程度の揺れを、受ける恐れもあります。

 
基準地震動は、1万~10万年に1度くらいしか起きない地震を、想定すべきものです。
だから、プレート間巨大地震とスラブ内大地震も、検討する必要があるのに、九電も審査側も、規則を無視して、「手抜き」をした
 
九電は、内陸地殻内地震による基準地震動については、原発から少し離れた活断層で起こる、M7.2~7.5の地震を想定して、最大加速度540ガル(加速度の単位)としました
 
川内原発の基準地震動は620ガル、とよく言われますが、これは、直下で、震源不詳のM6.1の地震が起きた場合の、想定最大加速度です。
しかし、活断層がなくても、M7程度までの大地震は起こりうるので、これは、明らかに過小評価です。
 
2007年新潟県中越沖地震(M6.8)では、東京電力柏崎刈羽原発の1号機の岩盤で、1699ガルを記録しました。
地震の想定と、地震動の計算の不確かさを考えれば、最低その程度の基準地震動にすべきです。
 
しかし、そういう技術的な話とは別に、規則に定められた手続きを飛ばしたのは、「耐震偽装」ともいえる大問題でしょう。
 
石橋氏は憤る。
これでは、規制委員会は、九電の代弁者にすぎません。
まるで、“子供の使い”です。
審査メンバーに、地震がわかっていて真剣に考える人がいないか、再稼働路線に屈服したかでしょう。
 
これほど杜撰(ずさん)な審査なのですから、無効にしてやり直すべきです。

全文 http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/asahi-20140924-02/1.htm


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