東京藝術大学でドイツ語を教えておられる川嶋均さんの、Facebookへの投稿が胸にしみました。
紹介させていただきます。
今朝のNHK朝ドラ『エール』は、オープニングの音楽もない異例のスタート。
インパール作戦が進行中のビルマのジャングルを、慰問に訪れた主人公の作曲家が、壮絶な戦闘に巻き込まれるシーン。
朝食の箸も止まってしまい、ただ息をつめて見入る15分間。
大勢のむごい死を目のあたりにし、「ぼく知らなかったんです、ぼく何も知らなかったんです」と、ふるえながら涙を流す主人公のラストシーンに、もらい泣きする。
戦場の現実、戦争の意味を知らぬまま、戦意高揚の戦時歌謡を次々ヒットさせ、若者たちを戦場に送り込むことに加担してきた自分の罪に、初めて気づいたということだろうか。
実在の作曲家・古関裕而がモデルになっているとのこと。
このあと彼はどう戦時を生きていくのだろう。
この朝ドラのチクルスを見始めたのは、物語もだいぶ進んでしまってから。
戦争に利用され、軍国主義に巻き込まれていく芸術家の生き方を描くまじめな姿勢に引き込まれ、最近は毎朝見ている。
これから始まる戦後に入ってからのシーンでは、歴史考証で、ときどき我が家にも(母のところに)ディレクターから電話がかかるようになり、これからはそうした興味も加わってくる。
(まうみ注・お母さまのみどりさんは看護師、看護学者、日本赤十字看護大学名誉教授です)
正午のNHKは、日本学術会議関連のニュースが3つも続いた。
1つ目は、首相の人事介入問題で、自民党が学術会議のあり方を検討し直す作業チームの初会合が開かれたニュース。
今後、政府から独立した機関としての学術会議のあり方を見直すかや、大学での研究を軍事政策にいかす方策について検討していくという。
介入への厳しい批判などどこ吹く風で、逆に学問の軍事利用にこれを利用しようとするとは、自民党はおそろしい集団になってしまった。
2つ目は、任命されなかった6人も呼びかけ人や賛同者に名を連ねる「安全保障関連法に反対する学者の会」が、今日午前、6人全員の任命を求める声明を発表した記者会見のニュース。
声明文を読み上げる佐藤学先生(学習院大学特任教授)の姿。
「日本学術会議法は、戦前、戦中の国家による学問や思想の統制に対する反省に立ち、政府からの独立性をうたい、総理大臣の会員の任命権を制約している。
学術会議が選考・推薦した者を首相が任命しないことは、明らかな違法行為だ。
学問の自由を侵害し、思想表現の自由の抑圧につながりかねない」
つづいて、小熊英二先生(慶應義塾大学教授、歴史学者)、内田樹先生(神戸女学院大学名誉教授、哲学者)のコメント。
最後に、ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英先生からの直筆で、
「菅首相が、こんな乱暴なことをした、ということは、歴史上長く糾弾されるだろう。
戦争の反省の上に作られた"日本学術会議"に汚点を残すものである」とのメッセージが、画面にきちんと映し出される。
ニュース3つ目は、今回の首相の人事介入に関与したとされる杉田官房副長官の、国会出席を野党4党が自民党に求めた件。
これは民主主義への挑戦だとする立憲民主の安住国対委員長のコメント。
「前例のないことだ」と杉田氏の国会出席をしぶる、自民党の森山国対委員長。
「前例をやぶるのが菅政権の売りなんでしょ。破ってみなさいよ」と、画面を見ながら家人がポツリ。
インパール作戦の朝ドラも、学術会議のお昼のニュースも、まっすぐにつながっているテーマだ。
今日のNHKは冴えていた。(2020年10月14日)
◆日本学術会議めぐり大学教授らが声明 “6人速やかに任命を”(NHK News Web 2020年10月14日)
この記事にはたくさんのコメントが入りました。
それを読んだ川嶋さんのコメントです。
皆さん、ありがとうございます。
朝ドラについて、見たままの短い描写と、ニュースの内容についてかいつまんだ記録を並べただけの投稿に、こんなにたくさんのレスポンスをいただき、とても驚いております。
それだけあのドラマの回に、皆さん感じるところが大きかったのでしょうし、学術会議をめぐる介入事件のあまりの深刻さに、危機感が募っていることの現れでもあるのかと受けとめてます。
現政権が、あらゆる意味において、あきらかに戦争へと向かおうとしているとしか考えられない今の状況を、かつての歴史と重ね合わせ、言論表現への抑圧がどう達成されていったのかや、芸術家達の生きざまについて、最近考えることが多くなってますので、今回のドラマからはいろいろ考える材料をもらっています。
インパール作戦については、去年BS1スペシャルとして放送され、今年も再放送された「戦慄の記録 インパール」がよかったですね。
それにしても菅政権と自民党が、まるで絵に描いたような学問への介入を、ここまで露骨に行うことに、驚いています。
教育分野では、教育基本法の改悪という大きな動きが安倍政権下でありましたし、銃剣道の復活とか、たった今騒ぎになっている、中曽根氏葬儀への弔意を示すよう全国の教育機関に政府が通達を出した問題とか。
この人たちは、ぼくたちが平和憲法を享受してきたこの70年あまりの間も、ただひたすら軍国主義復活の憧憬のなかで生きてきたのでしょうか。
議論のかみあわなさ、価値観のギャップのあまりの大きさ...。
日本の状況は、トランプに分断されるアメリカと、相似形のようにも見え、愕然とさせられます。
戦争がどれだけ悲惨な結果を国民に強いるものなのかということを、徹底的に学び、心をもって徹底的に伝えていくほかに、道はないと思っています。
芸術の果たす役割はその意味でも大きいですね。
今はこちらでも、社会が大きな岐路に立たされています。
進んではいけない方の勢力には妙な勢いがあり、いやそれは勢いというより乱暴という方が正しいのですが、いよいよ黙って眺めている場合では無いところに来ているような気がします。
これはいきなり現れたものではなく、長い時間の中でくすぶっていたもの、あるいは頭角を現すチャンスを伺っていたものであり、わたしたちはその存在に気づきながらも、日常の暮らしに追われて知らないことにしてきたものばかりです。
総理大臣だから、大統領だから、何でも自分の思い通りに決められ、やりたい放題できると思っている人が今、日本の総理大臣とアメリカの大統領をやっています。
勘違いではなくてそういうことができるように、システムや法律や人間を変えてきた。
そしてどんなに批判を受けても無視し、ゴリゴリと押し通してくる。
総理大臣も大統領も、誰がやっても同じだ。
投票に行かない人がよく口にする言葉です。
いいえ違います。
総理大臣も大統領も、安倍晋三や菅義偉、そしてトランプのような人物がやると国が一気に壊れます。
彼らが政治の頂点に立ってから、これまで隠れていた醜い思想の持ち主や差別主義者らが、堂々と表に出て来るようになりました。
これまでは大きな声は出せなかった人たちが大声を上げています。
こんな社会を放っておくわけにはいきません。