6才だった、まん丸目玉の、それはそれは可愛い女の子エラに出会ったのは、今から11年前のことでした。
わたしはその頃、出張レッスンをしていたので、毎週彼女の家まで行って、キッチンのすぐ隣にある電子ピアノで教えていました。
彼女は全くの初心者だったので、ドの音から学び始め、姿勢や指の訓練をいろいろやりながら、どんどん上手になっていきました。
とても恥ずかしがり屋さんだったけれど、わからないことや納得がいかないことがあったら、しっかりと伝えられる気の強さもありました。
レッスンの場所がわたしの自宅に、エラの家にもグランドピアノがやってきたりという変化の中で、
この子は伸びるなと、とても楽しみにしながら教えていたある日、
「事情があって中断するけれども、必ず戻ってくるから」と父親のチャーリーが言って、急に止めてしまいました。
とてもショックだったけれど、チャーリは音大を出ている人なので、とりあえずバトンタッチをしましょうと言って、詳しい話を聞かずに別れました。
そして何年か経って、どうしてるかな…と考えることもなくなりかけていた頃に、突如彼女は戻ってきました。
え?誰?と、最初は分からないぐらいに背が伸びた、髪の毛を真っ赤に染めた女の子が、玄関ドアの向こうに立っていました。
エ、エラ?
お化粧をしていたけれども、あのクリクリ目玉は小さい頃のまんま、懐かしい、そして驚きの再会でした。
「もう僕にはとてもじゃないが教えられない」と言うチャーリーから、またまたバトンが渡されました。
ホームスクーリングを経て、公立の高校に戻ってからも、彼女の心の中の嵐は、吹き荒れることをやめませんでした。
再開したレッスンも、だから時には休んだり、やって来たとしても話をするだけで終わってしまったりしました。
でも、「ピアノは絶対に止めない」と彼女が言うので、その気持ちを大切にしたいと思いました。
そして、世の中にはこんなのもいるよと、わたしの身の上話を聞いてもらったりしました。
やる気が出たり引っ込んだり、希望が膨らんだり萎んだり、怒りを抑えきれなかったり妙に隠したり、
いろんなエラを間近で見守りながら、また数年が経った頃、ミュージックキャンプやオーディションに参加したいと言い出しました。
それはいいことだと大賛成し、紹介状や推薦状をせっせと書いて渡しました。
高校では、この地域では一番厳しいことで有名なマーチングバンドに入り大活躍。
ボーイフレンドもできました。
もちろん気持ちの上がり下がりはあったけれども、そのことで自分を見失ったり、殻に籠ったりというようなことがなくなりました。
そして…彼女は今、高校の4年生。
マンハッタン・ミュージック・スクールの特設クラスの2回生(2年制)として、卒業演奏会を開きました。
曲は、ベートーヴェンソナタNo.7 ニ長調、ショパンバラードNo.3 変イ長調、そしてWilliam BolcomのThe Garden of Eden。
40分間の、とても良いプログラムでした。
マンハッタン・ミュージック・スクールはアッパーウェストサイドにあります。
その7階の小さなコンサートホールで、彼女の演奏会が行われました。
会場に入って行くと、彼女の現在の先生であるマリアがやってきて、よく来てくれましたと、ニコニコ笑って迎えてくれました。
エラの母親のジャッキーが、「まうみがいてくれなかったら今のエラはいない」と言ってくれるのを、深く頷いて聞いているマリアを見て、
ああきっと彼女も、エラの心をしっかりと聞いて、受け止めてやってくれているのだと確信しました。
ちょっと姿勢が悪いけれども、とても深みのある悲しみを表現している最中だから。
無事演奏会が終わり、君は僕たちの誇りだと、大感激のチャーリーから花束を受け取るエラ。
娘をずっとずっと、とても案じながら、時には涙ぐんで「もうだめかもしれない」などとつぶやいて、
でも、その目の奥に、それはそれは深い愛情と信じる心を燃えたぎらせて、見守り続けたジャッキー。
エラをぎゅうっと抱きしめながら、また涙ぐんでいるのでした。
ああ、なんてすてきな家族なんだろう…。
お祝いの乾杯を、近くのレストランで済ませ、夫とわたしは次の場所に急ぎました。
ニューヨーク州にあるThe Manor Club。去年も行われた『CABARET』の会場です。
様々な問題を抱えた子どもたちを救おうと立ち上がった、Mr. Hickey。
彼の娘や息子たちが、その遺志を受け継ぎ、基金を募るために毎年開催されるショーです。
右端が娘のマギー、真ん中がマギーのお兄さん。
マギーはACMAのメンバーで、先日のカーネギーでのコンサートでも演奏したフルーティスト。
本業はベテランアナウンサーで、なかなかの有名人さんです。
オークションに出された作品の中に、同じくACMAのメンバーのクラリネット奏者サラのものが!
サラは、古くなった管楽器の部品を基にして、アクセサリーを生み出すデザイナーさん。
多くの人たちの手が触れた物のあたたかみ、丸みが、彼女の作品の特徴です。
いつか身につけたいな~♪
いいな~と思ってた絵(右側のちっこい方)は、誰かさんの手に。
部屋の片隅では、耳に心地よいジャズが奏でられ、
さあ、いよいよキャバレーのはじまりです。
普通の家に見えたのに、こんなしっかりしたホールがあることにびっくり!
マギー登場!
長年のキャスター友、アーニーさんと。
いつもピアノを弾いてくれる彼の凄さったら…どんな要求にも即座に弾き応える彼の姿は、痛快かつ壮絶!
子どもたちの無邪気さっぷり!
往年の有名人、今真っ只中の実力者、これからが楽しみ過ぎる新人たちなどなど、今回も盛りだくさんのショーでした。
特に彼女、マリッサの歌声には、心を鷲づかみにされてしまいました。
ショーの後に行ったパーティで、さらに歌を聞いてメロメロ、思わずカードをちょうだい!と詰め寄ってしまったわたし…。
昨年彼は、ピアニストのお母さんと一緒に、フランクの『バイオリンとピアノのためのソナタ』を演奏してくれたのですが、
その後お母さんが急に亡くなり、今回は妹と一緒に、お母さんを偲んでの演奏でした。
オークションの売れ行き状況報告をする、ドンとクリスティン。マギーの仕事仲間です。
我らがACMAメンバー、ダイアンとサラ。どちらもすご~くすばらしい演奏家。
ショーの後、会場のフラワーアレンジメントを担当した友人マリアンヌが、よかったらわたしと一緒に、マギーのお姉さんエリザベスの家のパーティに行かない?と誘ってくれました。
着いて家の中に入る前から、大きな歌声が聞こえてきました。
ピアノを弾くのはもちろん彼!
そして、ショーで歌い足りなかったか、どんどんと歌い手が入れ替わり、それを目の前に立って聞くことに。
キッチンから運ばれてくるオードブルは、どれもこれもとても美味しかったのだけど、運んできてくれる子たちが若すぎるように思えて、それがちょいと気になりました。
お屋敷のご主人、エリザベスの夫のトムは、武道をたくさん学んだアジア通。
夫が鍼灸師だと言うと、地下に見せたいものがあると言って、鍼灸のツボを描いた裸体の人形を出してきました。
痛風で困っているようで、近くだったら通ってもらえるのに…。
ということで、音楽三昧、おしゃべりしまくりの一日でした。