若かった頃と違い、たった3時間しか眠れなかった日の翌日は、かなり悲惨なことになる。
日本に里帰りする時などは、全く眠れないまま着いちゃって、それがお昼とかだとそのまま夜まで起きたままで、
だからよく考えると、飛行機を乗り継いだりしてる間の20時間プラス到着してからの8〜10時間で、ほぼ1日半ほど眠らずにいたりする。
それで、やっと寝床に入って寝たと思ったら、時差ボケで朝の6時前には目が覚めて、それから始まる旅行の前半は、超寝不足の穴埋めと時差ボケとの戦いになるのだけれど、
でもやっぱり、久しぶりの家族や友だちとの濃い時間と、仕事や家事から解放された気分の高揚が、その怠さを上回るのか、ここでの寝不足より楽だったりする。
一昨日はだから、半分起きてるような寝てるような、眠たい菌が頭の中にどんどん増殖してきて、とうとう教えてる間にまで居眠りをしそうになった。
寝不足による免疫力の低下で、花粉や虫刺されに過剰に反応し始め、目がかゆいやら刺された痕が膿んでくるやら…。
なのにまたその夜も、5時間ちょっとしか眠れなかったので、二度寝した方がいいかもなー…などと思いながらボーッとしていたら、
「まうみちゃん、おはよう!」と、のんちゃんからメッセージが送られてきた。
あっ!!わたしったら、すっかり忘れてしまってた!!
行者ニンニク狩りに行こうと、のんちゃんから誘ってもらってたんだった!!
しかも、火曜日の午前中は用事があるわたしのために、わざわざ水曜日の午前中に変えてもらったんだった!!
慌てふためいてシャワーに入り、青タンの色を薄くするファンデーションを塗り、車に飛び乗った。
のんちゃんの家までは、高速道路が4分の3、地道が4分の1、たいてい1時間ぐらいで着く。
のんちゃんは、お友だちのカヨさんと一緒に、ツツジを植えているところだった。
なにやらカヨさんは、植物のことにとても詳しい人らしく、のんちゃんは地植えの正しいやり方を、伝授してもらっていた。
わたしも何も知らないまま、あれこれと植えては失敗しているので、教えてもらわねばならない。
裏手に回り、わたしの大好きな小川のせせらぎの音を聞く。
こんなのが家の敷地にあるなんて、ほんとに夢のようだ。
のんちゃんが出してくれた、コールスローとツナサラダで腹ごしらえをし、いざいざ出発!
のんちゃんは今や、行者ニンニクを見つける達人だ。
車で走っている最中でも、道端に生えている野生の行者ニンニクがあると、ピピピッとセンサーが働くらしい。
ということで、彼女が見つけた行者ニンニクは、こんなところに生えているのだけど、
わたしには、車から降りて、さらに歩いて近づいていっても、まだどこに生えてるのかがわからない…。
もう一つ別の場所に、結構大きく成長した野生の行者ニンニクを見つけたのんちゃん。
早速、彼女が用意してくれたカゴとスコップを持って近づいて行くと、あるある!野ばらの茂みの下に。
トゲにもめげず、せっせと掘り起こしていると、カヨさんがこう言った。
「ほんとは根っこはちゃんと残して、葉っぱだけ取って欲しいんだけどな」
「今の時期は、葉や花のために、球根から栄養が送られているときだから、今植え替えても、ちゃんと生き残れるかどうかわからないし…」
「植え替えの一番いい時期は、花が咲き終わり葉も枯れたときで、球根もちゃんと乾かしてからが一番いいんだよ」
「何よりも、自然の尊い命をつないでいく行程を、断ち切ってしまうことになるんだからね」
だんだんと罪の意識がわいてきて、手が止まってしまった。
とは言っても、わたしの手には、10株ほどの行者ニンニクがしっかと握られていたんだけれど…。
収穫に興奮しながら車に戻ろうとしていると、一人の男性から声をかけられた。
「君たち、そこで何してんの?」
「行者ニンニクを採ってたんです」
「うーん…あのね、そこね、私の敷地の中なんだけど」
「え?!」
「そう、うちの敷地はすごく広くて、向こう側の小川も敷地内なんだ」
「ごめんなさい!知らなかったので、勝手に入ってしまいました」
「で、それは何?」
「あの、これが行者ニンニクという野草で、炒めて食べたらとっても美味しいんですよ!」
「なるほど、それはいいことを教えてもらったんだけど、でも君たちが入ってったのは、私の敷地なんだよね」
「それは本当に申し訳なかったです。知らなかったとはいえ」
「で、そういうところから、君みたいに、根っこからすっかり取られちゃうってのはちょっとね」
彼の目は、まっすぐにわたしの左手を見ていた。
「そちらの女性の取り方だと、全然気にならないんだけどね」
カヨさんは、ほらねと、ちっちゃな声でわたしに言った。
繰り返し注意(苦情だな)を受けて、ペコペコと謝り、とりあえず今回は許してもらえた。
車に乗り込み、のんちゃんの家に戻った時にはもう、わたしは自分の家に戻らなければならない時間になっていた。
今日の収穫を分けないとと思っていたら、なんとのんちゃんは、全部を水に濡らしたペーパータオルで包み、わたしに渡してくれたのだった。
え?もしかして、今日の行者ニンニク採りは全て、わたしのために計画して付き合ってくれたの?
いやもう、ありがたいやら申し訳ないやら…。
のんちゃん、いい人過ぎ!
彼女の家の周りに生えている、初めて見る花たちを、カヨさんが教えてくれた。
トトロの傘の葉っぱのちっちゃい版みたいな葉っぱの茎の分かれ目に、なんとも可憐な花が一つずつ咲いている。
え?これも花なんだ?!
ちょっと失礼して、めくってみた。
帰り道、目の前を走っていたデッカイ車。タイヤとタイヤの間を通り抜けられそうなぐらいおっきかった。
我が家に到着した行者ニンニク。
葉っぱの部分は、ボストン近郊で獲れたエビと一緒に炒めていただいた。
球根を、カエデの爺さんと白樺さんの根元に分けて、植えることにした。
カヨさんから教えてもらった通りに、切り取った先っちょが少しだけ土から出るように植え、その上から落ち葉を被せた。
カエデ爺さん、よろしくね。
裏庭で、行者ニンニクを植えたところを囲む石を探していたら、紫色の花がポトポトと落ちていることに気がついた。
こんな花、見たことあったっけか?
空を見上げても、あるのはゲタの木だけ…え?もしかしてゲタの木の花?
急いで家に戻り、望遠が利くカメラで撮ってみると、
毎年、葉っぱが出てくる前に、一体何がくっついているんだろうとずっと思ってた。
もう7年も経ってやっと、こんなきれいな花を咲かせてくれていたことに気づくだなんて…。
真ん中で、まだ何も葉っぱが付いていないゲタ(桐)の木さん。
さて、木曜日の今夜は、わたしの生徒が3人出演する、シェイクスピア劇を観に行った。
妖精や惚れ草の汁などが出てくる、様々なカップルのドタバタ劇なんだけど、それを2時間近く、見事に演じきった子どもたち。
シェイクスピアの英語はとても難しくて、それを覚えるだけでも大変なのに、演技だって大したものだった。
みんなまだ中学生なのに、ほんとにすごい!
ピアノの発表会とはまた違った感動だった。
暗い会場だったので、写真は全てピンボケだけど。
左から3人が生徒たち。役柄は、妖精の王と王女、そしてイタズラ好きの妖精パック。
今夜こそ、よく眠れますように。