笑顔でゴールインする興譲館高校の足立知世
第24回高校女子駅伝競走大会の結果を分析しています。本日、取り上げるのは、大会第3位で9年連続の表彰台(3位以内)を達成した興譲館高校(岡山)です。
まず、興譲館高校の概要をおさらいしてみましょう。
所在地は、岡山県井原市西江原町2257-1
興譲館高校は、岡山県にある私立の高校です。江戸時代末期の嘉永6年(1853)に地域の教育のために開校され、初代館長には、漢学者の阪谷朗蘆(さかたにろうろ)が招かれました。ちなみに嘉永6年は、アメリカのペリー提督が黒船で浦賀に来航し、開国を迫った年です。また同名の学校で、進学校の山形県立米沢興譲館高校があります。こちらは、1618年上杉景勝家老直江兼続が創設した学問所に始まりますが、両校に関係はありません。
監督は、OBの森政芳寿氏(教諭)です。広島県の中学校で陸上を指導し、上位の成績を残して、母校の興譲館高校の女子陸上部創設とともに招かれ赴任しました。
興譲館の施設に特別なものはありません。監督はよくグラウンドの整備をしています。選手が足を痛めてはいけないので、地面を平らに均すのも監督の大切な役目なのです。資金力もなく、大学や宗教法人をバックに持つ豊川高校や立命館宇治高校の比ではありません。施設の整備は、OBや地元企業、個人の寄付でなんとか成り立っています。なので、同校に対する地元関係者の想いには特別なものがあります。
同校陸上部の卒業生に第17回優勝メンバーの、新谷仁美(ユニバーサルエンターテインメント)、重友梨佐(天満屋)、高島由香(デンソー)、第22回優勝メンバーの、赤松真弘(筑波大)、菅華都紀(豊田自動織機)などがいます。
今大会の目標は、もちろん優勝で、9年連続の表彰台(3位以内)がかかっていました。高校女子駅伝は、14年連続14回目の出場です。
過去5年間の成績は、以下のとおりです。
平成23年 2位 1:7:53
平成22年 1位 1:7:50
平成21年 3位 1:9:10
平成20年 2位 1:7:41
平成19年 3位 1:8:25
それでは、もう一度、今年(H24に読み替えてください)の記録を振り返ってみましょう。
今年の県大会の記録は、1時間8分29秒でした。
第1区 川内 理江(3)19:41
第2区 矢本 桜子(2)13:03
第3区 高橋 彩良(1)9:46
第4区 中里 真夕(1)9:32
第5区 藤井 純菜(2)16:27
さらに、中国地区での記録は、1時間9分27秒で第1位でした。
第1区 藤井 純菜(2)20:03
第2区 矢本 桜子(2)13:13
第3区 江口 美咲(3)9:33
第4区 奥野 舞子(2)9:58
第5区 足立 知世(2)16:40
次に全国大会の結果です。記録は、1時間8分3秒で3位でした。
第1区 川内 理江(3)19:44 区間3位 全体3位
第2区 矢本 桜子(2)13:10 区間3位 全体2位
第3区 江口 美咲(3)9:43 区間6位 全体4位
第4区 奥野 舞子(2)9:28 区間6位 全体5位
第5区 足立 知世(2)15:58 区間4位 全体3位
昨年のように、菅華都紀、岡未友紀といった強力な2枚看板がいない今大会、おまけに夏場は故障者が続出しインターハイでも、ほとんどいい記録が残せていませんでした。いったい全国大会はどうなるのだろうと、悲観的な見方が多かった中、直前の記録会で好調の3人を軸に大会に合わせて仕上げてくるところはさすが、というしかありません。
1区は選手同士のけん制によりスローペースとなりました。森政監督の狙いは、先行逃げ切り。1区・2区に好調の二人を配置しています。川内理江は、3年生ですが、1.2年次では、県大会にも全国大会にも出場していませんでした。しかし、今年に入って尻上がりに調子が出て、直前の長崎で行われた5000mトライアルで歴代10位の好成績を残しています。このように3年になってやっと努力が結ばれて出場できたというのは、実に喜ばしく、他の選手の励みにもなります。監督の思惑はできれば1位で、好調の2区、矢本桜子につなぐというものだったでしょう。しかし、4秒差の3位。1500mに今季日本人1位の記録を持つ、筑紫女学園・由水沙季のスパートに付いていけませんでした。しかし5秒差の3位は、十分その責務を果たしたと言えるでしょう。
2区は、監督が最も頼りにする矢本桜子です。スタートしてまもなく一人抜いて2位にあがりましたが、同じく一人かわしてトップに躍り出た薫英女学院の松田瑞生の快走に、さらに6秒開けられ、その差は11秒に広がってしまいました。区間賞をねらった矢本桜子でしたが、結局、区間3位の記録でした。この時点で豊川高校は6位、立命館宇治は3位とまさに混戦模様の今大会。監督としては、ここでトップに立ちたかったのですが、勝負の行方はまったくわからなくなってきました。
3区の江口美咲は、二人に抜かれ、順位を4位まで落としましたが、最後の粘りでくらいつき、トップとの差を8秒に縮めました。彼女の踏ん張りが、最終的に3位への足がかりになったような気がします。この区間、豊川高校の鷲見梓沙が区間新の走りでトップに。2位は、立命館宇治高校と、予想通りの強豪校が地力を発揮してきました。
4区は、復調してきた奥野舞子。テレビにそのシーンは映りませんでしたが、他校の選手と接触し転倒したようでした。これが1区、5区なら相当に影響が出るところですが、4区の短区間で、しかもあと500m付近でよかったと思いました。その後すぐに立ちあがって走り出しましたが、ダメージはあったはずです。よく頑張ったと思います。しかし一人に抜かれ順位は5位に後退します。これで連続9回目の表彰台は、潰えたと思いました。この時点でトップとの差は19秒に広がります。
最終5区は、足立知世。長崎での5000mの記録会では、15分40秒台の好成績を残しています。監督の期待もあったと思います。全国大会に出るのは初めてですが、堂々とした走りでした。中盤の脅威の粘りで前を行く2名を抜き去り3位となります。これには地元岡山も随分盛り上がったことでしょう。そして、笑顔で指3本立ててゴールイン。しかしすぐに「3番じゃダメなんです」と泣き崩れたそうです。
こうして、日本一奪還はなりませんでしたが、とにかく連続9回目の表彰台を堅持したことに心から敬意を表したいと思います。