同級生の住む豊田市へ行って来た。中学3年の担任が編集発行したクラス誌『麦の歌』の複製本を届けるためだ。『麦の歌』の表紙は彼女のデザインで、彼女は大学紹介の記事も書いている。いつもクラスではトップだった。背は私よりも高く、身体は痩せていてすらりとしていた。面長の顔と切れ長の優しい目は昔と変わらなかった。歌うことも好きで高校ではコーラス部に入っていた。インターホンから聞こえた声は昔のままだった。
私が『麦の歌』を渡すと、「あっ、これ私の絵?」と表紙を見て言った。「もう、すっかり忘れてしまった」と彼女は言う。第1号も見つかったので、秋のクラス会までには複製本を作るつもりでいることを告げて帰ってきた。帰りは大府の友だちのところに寄るつもりで家を出たのに、雪が舞って来たせいか、気持ちが萎えてしまい、そのまま家路に着いた。朝は青く晴れていたのに、時々雲がかかり、雪が舞う荒れた天気になった。
仕方ない。そんなものだ。昨夜、長女夫婦と居酒屋で食事をした。この辺りでは評判のよい店だから、必ず誰かに会う。飲む時は気を使いたくないので、出来れば知り合いがいない店に行きたかった。入った途端、知り合いに出会った。また、帰りがけにも知り合いに会った。彼がわざわざ席を立って、握手するので無視することは出来ない。私も握り返して、早々に退席するつもりだった。
「私はアナタを本当に尊敬している」と彼は言う。「とんでもない。あなたは成功者だけれど、僕は落ちこぼれですよ」と答える。彼は病院のオーナーを務める朝鮮人だ。きっと苦労して今の地位を築いただろう。その苦労に比べれば、私の人生など甘いものだ。昨日のテレビで「週刊プレイボーイ」編集長のドラマが放映されていた。その中で、今東光さんが「人生は運と欲とセンスだ」と言っていた。
長女が私を評して、「パパは本当にいいかげんなんだから」と言う。「それも信念でいいかげんだから困る」と。よく見ているなと思う。私に確固たるものがあるとすれば、「いいころかげんがいちばんいいよ」だと思う。「無秩序の中から秩序はうまれる。規制したり強要したりしてはいけない」。中校生の時から余り進歩していない。