坂東玉三郎が演じる歌舞伎『阿古屋』を観てきた。京都の南座で観劇したなら特別席で16000円、一番安い席でも5000円するが、映画だったので2100円で済んだ。でも実は、いつもの劇団・新感線のつもりで出かけて行ったので、金額を告げられた時は倍もするとビックリした。会場はまばらでしかも高齢の女性客ばかりだ。私の列の女性は映画の半分以上、眠っていた。
映画が終って、「琴や三味線の演奏ばっかりで眠かった」と大きな声で話していたが、どういう芝居か知らないと確かに分かりづらい。きっと玉三郎の女形を見たくて来たのだろうが退屈だっただろう。このシネマ歌舞伎は編集も監修も玉三郎が行っている。芝居に入る前に、玉三郎が女形を後世に伝えたいと語っていた。
筋書きは簡単で、源氏に敗れた平氏の武将、景清の恋人である遊女「阿古屋」に、行方を白状させようとする詮議の場面だけである。裁く代官は知恵者のようだが、もうひとりの補佐役は赤ら顔の男で品がない。代官はどんなに責めても白状しない阿古屋に訊ねるが、阿古屋は「知らないものは言いようがない」と答える。それならと代官は阿古屋に新しい責めを行う。
琴を演奏させ、次に三味線を、続いて胡弓を弾かせる。ここが見せ場で、琴も三味線も胡弓も見事に演奏し、途中で歌も口ずさむから、並みの役者では出来ない。玉三郎の指先の美しさはどうかすると女性以上かも知れない。代官は阿古屋の演奏に乱れがないことで放免する。源平合戦をテーマにした浄瑠璃の中のひとつで、3種の楽器を演奏するところが評判となり歌舞伎『阿古屋』となったという。
鎌倉時代が舞台なのに、遊女「阿古屋」は花魁の姿であったし、道化役に奴が出てくる。元は人形浄瑠璃で演じられたものなので、江戸時代の人たちが見てすぐ役どころが分かるためと面白さを演出するためであろう。玉三郎ファンにはたまらない作品ではないだろうか。ミッドランドシネマで27日(金)までの上映である。