マンションの玄関に3度降りたが、3度とも馴染みの人たちだった。ひとりは私と同じ干支の一回り上の男性で、早大の政経学部を出たインテリ。最近、奥さんを亡くされ、嫁に行ったが戻ってきた娘さんとふたりで暮らしている。娘さんも高学歴で亡くなられた奥さんに似たきれいな人だ。私の長女よりも少し上の学年だったように思う。
余りの暑さに男性は、「こうも暑いと、ますます先が短くなる」と話しかけてきた。短パンにアロハそしてサングラス姿だったので、「大丈夫ですよ。その格好なら」と答えると、「いや、もう若くないからなあー」と言う。奥さんが元気な時は、毎日のように洗車をし、ピカピカの車で出かけていた。しかし、どういう訳か、彼の駐車場は我が家の駐車場の向かい側だが、我が家の駐車場に車を移動して洗車されるクセがあった。
2度目は髪をアップにしてしっかり化粧をした女性とエレベーターが一緒だった。マンションでは犬猫の飼育を禁止しているが、この人のダンナは柴犬を飼っていた。犬が老齢になると叔母車に載せて散歩に出かけていたが、犬が死んでからは全く元気がない。マンションの周りをウロウロと徘徊している。周りの人は「認知症ではないか」とウワサする。私がテーブルセットを運んでいた時、彼は何も言わずに手伝ってくれた。
玄関先で人を待っていると1組の夫婦が手を繋いでやってきた。男性の方の両親は私と同じ団地からこのマンションに移り住み、同じようにここで仕事を初め、今では名の知れた会社に育て上げた。男性は小さな時からよく知っている。「やあー、仲良くて羨ましいね」と冷やかすが、ふたりは笑うばかりで手を放そうとしなかった。彼は長女よりも年下ではなかっただろうか。
マンションで暮らすようになって40年。住み続けている人は多いが、家族構成はずいぶんと変わった。家を建てて出て行った人もいる。年老いてから入居してくる人もいる。「老人ホームではないから」と年寄りの入居を敬遠する人もいるが、40年経ても入居してくれる人がいるからゴーストタウンにならずに維持・管理が出来ている。