夏祭りが始まり、私は鮎の塩焼きの傍でぼんやりしていた。この会場は子どもが多い。するとひとりの男の子が現れ、「割り箸ください」と言う。「ああ、ちょっと待ってね」と言って割り箸を探して差し出し、「何するの?」と聞いた。「お金を溝に落としちゃったんで」と答える。「そうか、じゃー割り箸よりも鮎の竹串の方がいいのじゃーないか」と言うと、ちょっと目が輝いた。
男の子は頭を下げると急いで会場を出て行った。私は大丈夫か探せるのかと心配が先に立ち、その子の後を追った。男の子に追い付き、「どこで落としたの?」と聞くと、「ここです」と現場を指さす。側溝にはコンクリートの蓋があり、その割れ目から中を覗き込む。「見える?」と聞くと、「あった」と言い、竹串で取ろうとするが無理だ。私は鉄製の格子状の蓋を引き上げ、コンクリートの蓋を上げようと試みたがビクともしない。
「ここから見えるか?」と男の子に覗くように指示する。男の子は「見えるけど、届かない」と言う。「何があればいい?」と聞くと、「長い棒かタモがあれば取れる」と答えるので、近所に人がいないかと探しに行くと、5・6人の子どもが集まっていた。「お金を落とした子がいて、長い棒かタモを探しているんだけど」と言うと、ひとりの子が「大島のところにあるんじゃないか」と呼び鈴を押してくれる。
出てきた男の子に事情を話すと、タモを貸してくれた。O君と呼び出したM君も来てくれて、お金を落とした子に代わって腹ばいになって探してくれるが、どうしても取り出せない。M君が作業を続けていると、姿が見えなかったO君が戻って来て、男の子に100円玉を渡し、「これやる。その代わり、ここの100円はオレがもらう」と言う。お金を渡すことに是非はあるかも知れないが、なんという粋なことを言う少年かと思った。
最近の子どもたちは他人にかかわろうとしない。ましてや自分の時間を他人のために使うことはない。そう思っていた。ふたりとも身体の大きな子だったので、「高校生?」と聞くと、「いえ、中学生です」と言う。「3年生?」と訊ねると、「1年生です」と答える。ますます、この子たちが好きになった。この話、中学校の校長さんに聞かせてあげたいと思った。