友々素敵

人はなぜ生きるのか。それは生きているから。生きていることは素敵なことなのです。

母の教えが子を育てる

2018年11月17日 17時22分02秒 | Weblog

  姜尚中さんの『母の教え』は、高原での生活の日々を綴ったもので、『心の力』や『悪の力』とは違ってスラスラと読める。高原の情景は、私の友だち夫婦の山荘を思い出させる。おふたりの長女と私の次女が保育園で一緒だったことから、付き合いが始まったから、もう40年以上になる。山荘の春夏秋は都会では味合えない趣がある。

 現実から逃避したような別世界だが、暮らしてみればそこが着実に現実である。春夏秋の花たちや木々の変化が克明に記されていて、そのことも友だちの山荘での生活と結びつく。もちろん、山荘の生活を綴っただけの随筆ではなく、折々の思い出やそこから思考していく世界に言及し、共感を呼ぶ。

 姜尚中さんが早稲田大学の学生になった時は、学園紛争の嵐が吹きまくっていたはずだ。けれども彼は学生運動から身を引いていた。「政治オンチ」であったのは、やはり生まれ育ちが大きく影響していたことが分かる。それがかえって、彼を「国際政治学者」に押し上げた。学生運動に身を置き、そこで男女差に注目した上野千鶴子さんの生き方に通じるところもある。

 「偉か人も、そうでない人も、金持ちも、貧乏人も、みんな口から入れて尻から出すと。そげんせんと生きていけんとだけん」。「人はね、裸で生まれて、裸で死んでいくと」。姜尚中さんの母親の言葉は率直だ。人は生まれながらに平等と教えている。「ここで一生懸命生きてきたとだけん。ここが故郷たい」。どこで生まれたとか、どこで育ったなんてどうでもいい、今、生きているところが「故郷」という訳だ。

 「今の世の中、ほんなこつ、情のない人が多かけんね。(略)ばってん、世の中にはよか人もおっとよ。情のある人もいるとたい。捨てたもんじゃなかけんね」。お母さんは「情のある人」と「情のない人」に分け、「情のある人」を尊い人と教えたのだろう。お母さんの苦労と踏ん張りが目に見える。母親の教えが子を育てる。

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