月に百万円もの会社の接待費を湯水のように使ってきた先輩たちが、「最後の恋」を口にしても本気とは思えなかった。80歳を過ぎたジイジに関心を寄せてくれるような女性がいるはずがない。そもそも先輩たちは、恋などとは無縁の人生を生きてきたはずだ。
もし、高齢者が「今、恋をしています」などと口にすれば、「気持ち悪い」とか「スケベジジイ」と言われるのがオチだ。世の中には「孤独な老人」が溢れているが、老人の恋など聞いたことが無いし、出来るはずも無いと思い込んできた。
名古屋が生んだ前衛歌人、岡井隆さんの『わが告白』(新潮社)の帯に「男女の愛とは何だろうか―」とある。岡井さんは1928年(昭和3)に生まれ、慶応大学医学部を卒業した医師だが、現代短歌に思想性を導入した前衛短歌の旗手として名が知られている。
1957年に同じ「アララギ派」の歌人と結婚し娘1人、翌年に別の女性と同棲し娘1人を授かる。北里研究所附属病院に勤務していた1970年、42歳の時に20歳年下の女性と九州へ隠遁し、息子2人娘1人を授かる。5年ほど経て医師として復帰し、歌人としても復活する。
1989年に30歳年下の女性と出会い、98年に70歳で結婚する。歌会初めの選者を務めるようになり、2007年には宮内庁御用掛となる。前衛歌人の遍歴にはすさまじいものがあるが、『わが告白』にどのように書かれているのか、まだ完読出来ていないのが残念である。
何歳になっても「恋」に憧れるのは男ばかりかと思ていたら、『疼くひと』の作者・松井久子さんが『最後のひと』を出版した。『疼くひと』では70代の女性が15歳年下の男性に溺れていく性愛の物語だったが、これはその続編のようだ。帯に「75歳になって、86歳のひとを好きになって、何が悪いの?」とある。
人は年齢に関係なく、男と女として、「幸せになる」ために、「ぴったりな人」を求め続けているようだ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます