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『海辺のカフカ』

2008年01月09日 | 小説・映画等に出てくる「たばこ」
◆ 『海辺のカフカ』に登場する「たばこ」     水元 正介

◎ せっかく、久しぶりに本を読むならば、何か目的を持って読もうと考えた。僕はたばこを吸うので、そのあたりのチェックを入れてみた。まず、登場人物の中で喫煙者は、さくらさん、星野青年だけであり、大島さんの兄であるサダさんがそれらしい。
吸われている銘柄および喫煙回数等は…
ヴァージニア・スリム(さくらさん):登場回数2、喫煙回数1
マールボロ(星野青年):登場回数7、喫煙回数7
煙草(さくらさん、星野青年、サダさん):登場回数5、喫煙回数3+α

◎  また、上巻でたばこが登場するのは、たったの2回だけである。下巻では、星野青年がパチンコでゲットした2カートン(計20箱)のマールボロを中心に、たばこは欠くことのできないツールとして頻繁に登場している。村上春樹さんは、小説の中で使うたばこの選び方がとてもうまいし、印象に残る一つの銘柄を説得力ある形で使っているように思う。これまでも、セブンスターやショートホープを、「この人以外にはない」という登場人物に、無理なく、自然に吸わせている。彼自身は、とうにたばこをやめているけれど、小説家の目には少しの狂いもないのだと思った(僕の好きなCAMELでは、説得性に欠ける、という意味で…)。

◎ 事例をあげるまでもないけれど、下巻145ページの「星野青年は首を上げて、部屋の中を見渡した。部屋は妙によそよそしく、四方の壁は以前よりももっと無表情になったみたいだ。灰皿の中では吸いかけのマールボロが、そのままのかたちを残して灰になっていた。青年は唾を呑み込み、沈黙の重みを耳から払いのけた。」という描写から、マールボロというツールを取り除いたら、絶対に雰囲気が出ないのである。

1 上P125
流し台の中に積み上げられた皿、空のペットボトル、読みかけの雑誌、既に盛りを過ぎた鉢植えのチューリップ、冷蔵庫にテープでとめられた買い物のメモ、椅子の背中にかけられたストッキング、テーブルの上に広げられた新聞のテレビの番組欄、灰皿とヴァージニア・スリムの細長い箱、何本かの吸殻。そんな光景が僕の気持ちを不思議にほっとさせる。

2 上P127 
「ねえ、最初からゆっくり説明してくれる?」と彼女(さくら)は言う。そしてヴァージニア・スリムの箱から一本煙草を取りだし、マッチで火をつける。「どうせ今夜はうまく眠れそうにないから、君の話につきあうことにするよ」

3 下P9
夕食の時間になってもナカタさんは相変わらず眠っていた。青年は外に出てカレー屋に入り、ビーフカレーの大盛りとサラダを食べた。昨日と同じパチンコ屋に行って、また1時間ほどパチンコをした。今度は1000円も使わずにマールボロのカートンを2箱とることができた。

4 下P52
ビールを飲み終えると店を出て、中日ドラゴンズの帽子をかぶって、あてもなく散歩をした。それほど面白い街には見えない。しかし見知らぬ都会を一人で足の向くままさまようのは、悪くない気分だった。もともと歩くのは好きだ。マールボロを口の端にくわえ、ポケットに両手を突っ込み、大通りから大通りへ、路地から路地へと青年は歩を運んだ。煙草を吸っていないときには、口笛を吹いた。

5 下P145
星野青年は首を上げて、部屋の中を見渡した。部屋は妙によそよそしく、四方の壁は以前よりももっと無表情になったみたいだ。灰皿の中では吸いかけのマールボロが、そのままのかたちを残して灰になっていた。青年は唾を呑み込み、沈黙の重みを耳から払いのけた。

6 下P162
星野青年は何度も首をまわし、骨の具合をたしかめた。それからひとつ大きくのびをした。窓際に座って外の雨上がりの風景をひとおり眺め、ポケットからマールボロを取り出してライターで火をつけた。

7 下P165
彼は新しいマールボロに火をつけた。ゆっくり煙を吐きだした。そして電柱のてっぺんにとまったカラスに向かって百面相をした。

8 下P234
星野青年は市内地図にマーカーでしるしをつけていった。ひとつのブロックをくまなくまわり、すべての道を通過したことを確認してから、次のブロックに移った。ときどき車を停めてほうじ茶を飲み、マールボロを吸った。

9 下P242
星野さんは地図から顔をあげ、ナカタさんの目を見た。それから眉を寄せて図書館の門を見た。看板の文字をもう一度ゆっくりと読んだ。マールボロの箱を取り、一本振り出して口にくわえ、プラスチックのライターで火をつけた。煙をゆっくり吸い込んで、開いた窓から外に吐き出した。

10 下P355
青年は寒さに身震いし、部屋を出てドアを閉めた。それから台所に行ってコーヒーメーカーでコーヒーをつくり、2杯飲んだ。そしてトーストを焼いて、バターとジャムをつけて食べた。食事が終わると台所の椅子に座って、窓を眺めながら煙草を何本か吸った。

11 下P359
「なあ石くん、もし俺が女でさ、そして俺みたいな身勝手な男とつきあっていたとしたらだね、そりゃ頭に来るだろうぜ」と青年は石に語りかけた。「今になってみると、自分でもそう思うよ。それなのになんでみんな、けっこう長く俺のことを我慢していたんだろうね。まったく我がことながらよくわかんねえよな」
彼はマールボロに火をつけ、煙をゆっくり吐き出しながら、片手で石を撫でた。

12 下P411 サダさんの車内
色褪せた布製のシートには白い犬の毛がたくさんついている。犬の匂いに混じって、乾いた潮の香りもした。そしてサーフボードに塗るワックスの匂い。煙草の匂い。エアコンの調整つまみがとれてなくなっている。灰皿には煙草の吸殻がつまっている。ドアのポケットにはむきだしのカセットテープが手当りしだいに突っこんである。
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