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【シックス・ディ】

2008年01月10日 | 小説・映画等に出てくる「たばこ」
◎ アーノルド・シュワルツネッガー主演の『シックス・ディ』を観た。その中で、仕事柄おもしろいと思ったのは「未来社会のたばこについて」である。映画では、喫煙が法律で禁止されている時代背景になっていた。しかし、葉たばこ手作りに近い方法で製品にすることができ、なおかつ長期間保存可能な葉巻が、主人公の密かな楽しみとして使われていた。

◎ テーマは、キリスト教国に分類される欧米社会流にいえば、「神の領域」と「人間の領域」とのせめぎ合いについて、「クローン人間」の現実的な登場を通して描いている。ところで、私は「すでに人間はなかばサイボーグ化している」と思っている。臓器移植や人工臓器等を例にするまでもなく、たとえば、このパソコンが私自身の手や記憶装置の延長であるように……。

◎ 最近とくに、たばこという嗜好品に対する風当たりが強いけれど、これを麻薬と同じような「ドラッグ」と断定し、人類から抹殺してしまうような動きや考え方には、どうしても違和感がある。それは、「善悪」「有罪無罪」などの二者択一的な発想そのものであり、『シックス・ディ』で暗喩された「永遠の命」と同様に、味気なく、もの悲しい結果を招くに違いないと思ったのである。(FRI.13.JULY.2001)
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「ねじまき鳥 クロニクル」(第3部)②

2008年01月10日 | 小説・映画等に出てくる「たばこ」
◆ 「ねじまき鳥 クロニクル」(第3部)②   水元 正介

【たばこが登場する場面の抜き書き】(その2)

p190  (労働組合の記述)…でもかつら会社の方もそれでかまわないというか、むしろてきとうに何年か働いて、結婚したらやめてくれるほうがありがたいみたい。長くこしをすえて給料だのタイグウだの組合だのとややこしいことをもちだされるよりは、働き手がちょこちょことてきとうにいれかわってくれるほうがツゴウがいいのです。

p200 牛河はマッチを擦って新しい煙草に火をつけた。

p204 牛河は立ち上がり、グラスとビール瓶と灰皿を流しのところに持っていって置いた。・・・
 牛河がいなくなると僕は窓を開け、中にこもっていた煙草の煙を外に出した。それからグラスに水を入れて飲んだ。ソファーに座って、猫のサワラを膝の上に抱き上げた。

p225 牛河は電話の向こうでマッチを擦って煙草に火をつけた。僕は彼の黄色くなった乱杭歯と、たるんだ口もとを思い浮かべた。

p282-287 彼女はいつものように滑らかな一連の動作でバッグから煙草をだして口にくわえ、少しだけ唇を曲げ、ライターで火をつけた。ライターは緑色ではなく、いつもの細くて高価そうな金のライターだった。・・・
・・・ナツメグはそれについて何も言わなかった。煙草の煙はインド人の魔法の蝿みたいに、まっすぐ一本の線になってするすると上昇し、天井の換気装置に吸い込まれていった。僕の知るかぎりではそれはおそらく世界でいちばん静かで強力な換気装置だった。・・・
・・・彼女は灰皿に手をのばして煙草の火を丁寧に消した。それから小さく首を振った。対になったイヤリングが春先の蝶々のようにふらふらと揺れた。・・・
・・・ナツメグは指にはさんだ細い金のライターを長いあいだくるくると回しつづけていた。それは風の弱い日の金色の風車みたいに見えた。・・・
・・・ナツメグは煙草の箱を手に取って中から一本とりだしたが、なかなか火をつけなかった。じっと指のあいだにはさんでいるだけだった。・・・
・・・ナツメグの一対の目はじっと僕の目を見つめていた。やがて思い出したように煙草に火をつけた。

p312 -313 「まず、ここに大きな穴を掘る」、中尉は自分に言い聞かせるようにそう言った。そして立ち上がり、胸のポケットから煙草をだして口にくわえた。彼は獣医にも煙草を勧め、マッチで二人ぶんの煙草に火をつけた。二人はそこにある沈黙を埋めるべくひとしきり煙草を吸った。・・・
・・・返事はない。中尉は目を細めて、指のあいだから立ち上る煙草の煙を眺めているだけだ。だから軍人に質問したって無駄なのだ、と獣医はあらためて思った。・・・
・・・中尉は短くなった煙草を地面に落として踏み消した。

p316  それから彼は伍長に向かって手短に、四人のうちの三人(背番号1、7、9)を銃剣で刺殺するように命じた。三人の兵士が選ばれ、それぞれの中国人の前に立った。兵隊たちは中国人以上に青ざめた顔をしていた。中国人たちは何かを望むには疲れ過ぎているみたいに見えた。伍長は中国人たちひとりひとりに煙草を勧めたが、誰も吸わなかった。彼は煙草の箱を胸のポケットにしまった。

p318 中尉はまた煙草をだして、それを吸った。そして獣医にも一本勧めた。獣医は黙って受け取り、口にくわえ、今度は自分でマッチを擦った。手は震えていなかったが、そこには感覚というものがうまく感じられなかった。まるで厚い手袋をはめてマッチを擦っているみたいだ。

p350 (牛河をホームで偶然発見し・・・)僕らは田町で電車を降りて、駅を出て最初に目についた小さな喫茶店に入った。
(注)田町駅前を知る人間として、ちょっと無理がある。具体的に喫茶店が特定できない。

p353 ・・・そしてポケットから煙草を出し、マッチを擦って火をつけた。煙をゆっくりと吸い込み、ゆっくり吐きだした。

p356 牛河はそこまで話すと一休みして水を飲み、ちらりと腕時計に目をやった。そして新しい煙草に大事そうに火をつけた。

p358 僕は黙っていた。ウェイトレスがやってきてグラスに水を注ぎ、空のコーヒーカップを下げていった。そのあいだ牛河は壁を見ながら煙草をふかしていた。・・・
・・・「いや、何もそんなことは言ってません」、と火のついた煙草を空中で何度か振った。

p381 ・・・でも今だって裏では個室を与えられ、酒も煙草も好きに与えられているんだ。俺(ニコライ)に言わせれば、あんな奴は毒蛇のようなものだ。・・・

p382 「やあマミヤ中尉、久しぶりじゃないか」と彼(ニコライ)はにこにこと機嫌よく笑いながら言いました。彼は煙草を私に勧めましたが、私は首を振って断りました。彼は自分で煙草をくわえてマッチで火をつけました。

p415  しばらくのあいだ誰も口をきかず、身動きひとつしませんでした。でも少しあとで(皮剥ぎ)ボリスは椅子から立ち上がり、ゆっくりと身を固めて私(マミヤ中尉)の落としたワルサーを床から拾い上げました。手の中のその銃を考えぶかく眺めてから、静かに首を振って、コート掛けのホルスターに戻しました。そして慰めるように私の腕を軽く二度叩きました。
「私を殺せないと言っただろう?」、ボリスは私にそう言いました。そしてポケットからキャメルの箱を取り出して一本を口にくわえ、ライターで火をつけました。

p472 -473 ナツメグは煙草を口にくわえ、いつものように乾いたこきみのいい音をたてて金色のライターで火をつけた。そして目を細め、煙を吸い込んだ。本当に僕は死ななかったんだと、そのライターの音を聞きながらあらためて思った。多分ぎりぎりのところでシナモンが井戸から僕を助けだしてくれたのだろう。

( ̄△ ̄)y─┛.。o○
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「ねじまき鳥 クロニクル」(第3部鳥刺し男編)①   

2008年01月10日 | 小説・映画等に出てくる「たばこ」
◆ 「ねじまき鳥 クロニクル」(第3部鳥刺し男編)①   水元 正介

【たばこが登場する場面の抜き書き】(その1)

p13 それから灰皿と煙草とマッチ。前ほど沢山は吸わないけれど、たまにちょっとだけ気分テンカンに吸います(ちょうど今は一本吸っているところ)。机の上にあるのはそれくらい。

p30 そして上着のポケットから煙草を取り出し、角度を狙い定めるようにしてマッチを勢いよく擦った。「私が叔父さんにあの家をお世話して、それからまたずっと貸家の管理をしとったんだよ。しかしまあ忙しいのは何よりなことだ」

p33 …。あの土地にかかわるとロクなことはないんだ」、そして灰皿の上で煙草の灰をとんとんと叩いて落とした。

p35  老人は煙草の箱を取って一本新しく抜き出し、先端をテーブルの上でとんとんと叩いた。でもそれを指のあいだに挟んだきり火はつけなかった。舌先で唇をちらりとなめた。……老人はしばらくのあいた、火のついていない煙草を眺めながら何かを考え込んでいた。ひとつ小さく咳払いをした。

p42 -43 彼女はそんな僕のとなりに腰を下ろし、黙って脚をくみ、バッグの口金を開けてヴァージニア・スリムの箱を取り出した。そして前と同じように(注:去年の夏)僕に一本勧めた。前と同じようにいらないと僕は言った。彼女は一本を口にくわえ、細長い消しゴムくらいの大きさの金のライターで火をつけた。…
彼女は少し目を細めた。「結局またここに戻ってきたわけね」
 僕はうなずいた。
 細い煙草の先から煙が立ち上り(注)、風にふらふらと揺れて消えていくのを僕は見ていた。

p44-45 彼女は唇を少し斜に曲げた。「少ない金額ではないわね」
 「僕にはものすごく多いように思えます」
 彼女は三分の一吸った煙草を地面に落とし、ハイヒールの底で注意深く踏んだ。…
 その女が足早に人々の流れの中に消えてしまったあと、僕は彼女の踏み消した煙草の吸いがらと、そのフィルターについた口紅をしばらく眺めていた。その鮮やかな赤は、加納マルタのビニールの帽子を思い出させた。
 もし僕に何か強みがあるとしたら、それは失うべきものがないという点だった。たぶん。

p84  彼女は僕のとなりに座り、黙って煙草を一本吸った。いつもと同じようにハンドバッグからヴァージニア・スリムを取りだし、口にくわえ、金の細いライターで火をつけた。さすがに今度は僕には勧めなかった。そして何か考え事をするように二度か三度煙草を静かに吸ってから、今日の引力の具合を試すみたいにひょいと地面に落とした。それから僕の膝を軽く叩いた。「いらっしゃい」と彼女は言った。そして立ち上がった。僕は煙草の火を踏んで消し、言われたとおりあとをついていった。

p89-91 彼女は返事をしなかった。ハンドバッグからヴァージニア・スリムを取り出して、口にくわえた。どこかから背の高い端整な顔だちのウェイターがさっとやってきて、慣れた手つきでマッチを擦って煙草に火をつけた。マッチを擦るときにとても感じのいい乾いた音がした。食欲が増進しそうな音だった。
…やがてウェイターがやってきて、僕と彼女の前に炭酸入りの水を置いた。彼女は灰皿で煙草を消した。

p126  獣医は胸のポケットから汗で湿った煙草の箱を出して、一本を口にくわえ、マッチを擦った。火をつけるときに、手がぶるぶると小刻みに震えているのに気がついた。その震えはなかなか収まらず、煙草に火をつけるのに三本のマッチを必要とした。…それほど多くの数の動物たちが、自分の目の前で一瞬のうちに「抹殺」されてしまったことに、どうしてだかわからないのだが、それほどの驚きも哀しみも怒りも感じていなかった。実際のところ、彼はほとんどなにも感じていなかった。彼はただひどく困惑しているだけだった。
 彼はしばらくのあいだ、そこに座って煙草をくゆらせながら、自分の気持をなんとか整理しようと試みた。

p127 -128 …大きな満州のばったが何匹か、ぶんぶんと威勢のいい音を立てながら顔を上を飛び越えていった。彼は横になったまま二本目の煙草に火をつけた。ありがたいことに、手はもうさっきほどは震えていない。彼は煙草の煙を肺の中に深く吸い込みながら、中国人たちがどこかで、さっき殺されたばかりの大量の動物たちの皮をかたっぱしからはぎ、肉をさばいているところを思い浮かべてみた。獣医はこれまでにも、中国人がそのような作業をこなすところを何度も見ていた。彼らはおそろしく腕がよく、作業の要領もいい。動物たちはあっというまもなく皮と肉と内蔵と骨に分けられてしまう。まるでもともとそれらは別々のものであって、たまたま何かの都合で一緒になっていただけなのだという風に。

p152-156 …でもほんの僅かに煙草の匂いがする。どうやら家の中には僕以外に誰かいるようだった。その人物はここで僕の帰りを待ち受けていたのだ。そして少し前に、おそらく我慢できずに煙草に火をつけた。窓を開けて煙を外に逃がすようにして二口か三口だけ吸ったのだろうが、それでも匂いは残っている。たぶん僕の知っている人間ではない。家は戸締りがしてあるし、僕の知っている人間は赤坂ナツメグを別にすれば誰も煙草を吸わない。そしてナツメグは僕に会うために暗闇の中でじっと待っていたりしない。…
… 話すときに言葉によっては上唇がくるっとめくれて、煙草の色に染まった乱杭歯が見えた。僕がこれまで会った人間の中でも、間違いなくいちばん醜い何人かの一人だった。ただ容貌が醜いというだけではなく、そこには何かねっとりとした、言葉では形容のできない不気味さがあった。それは暗闇の中で素性の知れない大きな虫に手を触れられてしまった時に感じる気味の悪さに似ていた。その男は、実在の人物というよりは昔に見たっきりすっかり忘れていた悪夢の一部みたいに見えた。
「すみません、煙草を一本吸って構いませんかね?」と男は尋ねた。「ずっと我慢してたんですけどね、こうやって座って待っているとなにしろ苦しくってね。煙草というのはどうもいけませんね」
 僕はうまく口がきけなかったので、ただ黙ってうなずいた。その奇妙な風貌の男は上着のポケットから両切りのピースを出して口にくわえ、大きな乾いた音を立ててマッチで火をつけた。そして足元にあったキャットフードの空き缶を取って、中にマッチを捨てた。その空き缶をどうやら灰皿代わりに使っていたようだった。男はいかにもうまそうに、毛だらけの太い眉をひとつに寄せて煙草を吸った。感に堪えないような小さな声まであげた。男が煙を大きく吸い込むと、煙草の先が石炭みたいに赤く鮮やかに燃えた。僕は縁側に面したガラス戸を開けて、外の空気を中に入れた。外ではまだ静かに雨が降っていた。目では見えないし音も聞こえないが、匂いで降っていることがわかる。
 男(牛河)はとりあえず必要なだけのニコチンを肺の中に吸い込んでしまうと、ほっと溜息をつき、微笑みと薄笑いの真ん中あたりに位置するような不思議な笑いを顔に浮かべた。そして口を開いた。…
 … 僕は台所に行って冷蔵庫を開け、ビールの小瓶を持って戻ってきた。牛河には何も勧めなかった。僕が家に呼んだわけではないのだ。僕は黙って瓶のままビールを飲み、牛河も何も言わずに両切りの煙草を深々と肺に吸い込んでいた。僕は彼の向かいの椅子に座らず、柱にもたれて彼を見下ろすように立っていた。やがて彼はキャットフードの空き缶に煙草を突っ込んで消し、僕を見上げた。

p165 …彼はポケットから歪んだピースの箱を出して、マッチで火をつけた。…
…牛河は笑った。そしてまた煙草の煙を深々と吸い込んだ。

p169 僕は返事をしなかった。牛河は短くなった煙草をキャットフードの缶の底におしつけるようにして消してから、ふと思いだしたように腕時計に目をやった。

p184 彼女はその頃を思いだすように微笑んだ。僕がそんなに自然なナツメグの微笑みを目にしたのは初めてだった。
「でもある日、それは突然終わっってしまった」と彼女は言った。「口をきかなくなったその二月の朝から、シナモンは私と物語を共有することをやめたの」
 ナツメグは間を置くように煙草に火をつけた。
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