おとといのBSフジ「プライムニュース」のテーマは65歳までの雇用義務化と、それに関連 しての日本型雇用の課題とあり方、といったもの。労働政策研修研究機構の濱口氏 が出ていたので、最後までしっかり見ました。ほかのゲストはICUの八代さんと、衆院 議員の塩崎さん。
今年4月から施行される改正高齢者雇用安定法では、1)定年延長、2)定年の廃止 、3)65歳までの雇用継続のいずれかを選ばなくてはいけない(確か)。これまでも同じような規定だったが、「雇用継続」の際に労使協定によって、能力の低い人やなんやらという基準を設ければ、雇用継続しないということもできたが、改正によって基準を決めるということができなくなった。
その影響について議論しようと番組が作られたようだけど、実際は雇用継続の話よりも、日本型雇用と、現在議論されている新しい解雇ルールの議論が多かった。
メモしておきたいと思ったのは、すでに共通認識になりつつあるようだけれど、
■日本型雇用における特徴は「強大な人事権=就職ではなく就社と言われるような包括的労働契約」で、これゆえに仕事の中身や成果ではなく、年齢を参考にした「潜在的能力」で給与が決まっていた。だから、年齢につれて上がり続けることになるけれど、かつては55歳だった定年が今や60歳になり、それ以降に(実際の生産性以上の)高い賃金は払えないということで「再雇用」という賃金が3分の1ほどになる独自ルールを作り上げた。
■これまで、「基準」を設けて再雇用をする/しないの選択が企業側にあったが、実際 これで再雇用にならなかった人は、再雇用希望者のうち2%に満たない。だから、法改正によって全希望者を再雇用することになっても、プラス2%ほどの話で大きな影響
はないと思われる
■課題は、多くの企業が採用する「再雇用」というやり方が本当に良いものかどうか。スキルや仕事の内容が大きく変わらなくても、賃金が急激に下がり、労働意欲をなくすようなものは、定年制=年功賃金制があるからやむなくそうなっているだけで、好ましいものではないはず。定年を廃止して、年齢で賃金が上がるという要素を薄くして、よりスムーズな雇用継続を目指すべきではないか、というのが濱口氏の考えだった
■そのためには、年齢で賃金が決まるのではなく、仕事の内容で決まる「ジョブ型」にしていくべき。経理なら経理、営業なら営業での採用募集に対し、就職する。急に部署横断的に異動させられたり、地方に転勤させられたりしない。その分、たとえば営業職の業務が減れば、解雇しなければいけない。「強固な人事権=解雇回避義務大きい=解雇するには多くのハードル」というパッケージに対して、「ジョブ型の就職=人事部の裁量権小さい=雇用は簡単明快」というパッケージに移行すべきではないかと。
■その場合の賃金は、今よりつましいものになるかもしれない。職務限定的であれば年齢が上がるほどに生産性は上がらないことが反映される。50代になっても住宅ローンを払いきらないかも。そういう多くの人のために、子育て・現役世代に対する社会保障を充実させているのがヨーロッパ型。子育て支援として、子ども手当の支給や、高校や大学の無償化により、子どもを持った人の負担感を減らす。
■賃金が明確に上昇し続けるわけではない世界では、共働きをスタンダードにすることも重要。転勤・異動を会社に一方的に言い渡されるやり方は、どう考えても専業主婦家庭をモデルにしているのだ。そうではなく、ジョブ型にすることで、その配偶者である女性も継続的に職場を得て、育児休暇も取りやすくし、一定の世帯収入を確保する。これはセットになっている考え方だ。
■これらの日本型雇用は、政策で実施されたのではなく、労使交渉の中で慣行が作られた。変更もまた、政策を必要としない。ただ、この労組が弱体化した中ではどうやっていくのか。昨日の日経新聞、経済教室を書いていた神林龍氏は「従業員代表制の導入」と書いていたが、どういうことなのだろう?
こうやって見ていくと、日本型雇用というものが子ども手当にまでつながっていて面白い。雇用のルールはパッケージなのだ。新卒一括採用という入り口から、定年や解雇といった出口まで。大企業の総合職がスタンダードの従来的なやり方から、中小企業型の給料があまりあがらないけどやっていけるやり方に、大きく舵を切る段階に来ているんだろうか。
労働の世界の難しさは、雇用ルールはあくまで民間で決められていて、労使が自発的に作ってきたとされること。労基法や裁判判例で最低基準や大枠を決められてきてはいるけど、細かいルールは民間の勝手。労使で決めれば月に100時間でも、合法的に残業できてしまう国。どうやったら成熟した国らしいものになっていくのだろう。