昨日書いた日本の労働制度の特殊性。これを含めて、日本の制度の多くは
「戦時体制」が基礎のままになっている――これがこの本の一番のメッセージだ。
戦時体制は重厚長大産業・製造業が世界的にもメインだった高度経済期、
特にオイルショック時には非常に効率的に機能した。しかしその後、
インターネットなどの通信技術が発達した「分権型」経済、分権型社会には
対応しにくく、間接金融から直接金融主体の資本経済などの、転換を
できないでいる。
『日本の雇用と労働法』とつながる部分も多く、より高い視点で見られた。
高度経済成長、オイルショック、バブル、バブル崩壊・・・と自分の目では
見ていない私たちの世代にとって、びっくりするような「常識」「からくり」がある。
著者が「戦時体制」(もしくは戦時体制の思想)というのは、農地改革や
経営と資本が分離された経済システム、労働組合などだ。
「戦時中の革新派が、GHQ占領下でその思想を具現化した」というような
説明も多い。農地改革のような農村(小作人)救済策は戦時中に軍部から
出ていたし、食管法も戦中にできたもの。何より、これを読むまで知らなかったが
「商工省」は「軍需省」が、占領軍がくる直前に看板をすべて書き換えただけの
全く同じ組織だったのだ。
具体的に、メモしておきたいのは日本特有の「間接金融」がもたらした功罪。
・間接金融
→企業は株主や配当を気にせず事業拡大できる
→世間に新規株式は出回らず、一般大衆は株式による資金運用の選択肢がない
→一般大衆は(郵貯などに)預金
→経済成長・物価上昇中では、預金は実質的に目減りする
(株式は通常経済成長とともに水準が上がるので、実質価値も上がる)
→郵貯に集まった巨大なお金は、財政投融資として、日本開発銀行を
通じ低金利で企業に回った(企業にとってはかなりリーズナブルな資金に)
→大衆にとって資産運用は土地でしかできず、バブルの原因に
この構図は、重厚長大産業に巨額の投資が必要だった高度成長期、
そしてオイルショック時にはよかった。
特にオイルショック時は、
・為替レートの悪化(円安)とインフレ
→労使協調の中で、労働側は過度な賃金引上げ要求せず
→円安を利用して輸出拡大、経常収支改善
→為替レート標準化
という回復基調をたどれた。イギリスなど労働組合が強いところでは、
インフレ→賃金引上げ要求、となり、コストアップゆえに輸出拡大がうまく
できなかった。
そのほか、バブルとバブル崩壊についても詳しく、いろんなエピソードを
載せている。もともと雑誌の連載記事だから、読みやすい。登場人物も
多く、人物像から経済政策を解くところも多い。
一日で読み終える本としてはお得でした。